演奏会感想の部屋

 

 
  <2006年 一般Bの部感想>

 

 各団体の感想の前に3つ、感じたことを。

 1)「ホールの感覚の共有」

 今回、一般Aグループを聴いて、「良いホールだ!」と思ったのですが。
 残念ながらBにはふさわしいとは言えないようでした。
 いわゆる 「響きすぎ」。
 この所、ホールが演奏に及ぼす効果って
予想する以上に大きいんだろうなあ、とつくづく思うのですが
今回もBグループの演奏はそんな印象で。
 合唱団が意図している部分が、ぼやけてしまい、伝わりにくい。
 結果、平坦な印象になった団体が多かったかも・・・。

 この全国大会で出演された、
指揮者の方とメールのやり取りをした際
私の印象に同意された上で、

 「ホールトーンの感じ方の共有」ということに言及されていました。

 すなわち、ホールで充分なリハーサルをするコンサートなどではなく、
ほとんど「一発勝負!」のコンクールでは、
客席で演奏がどのように聴こえるのか見当が付かない。

 経験の積んだ合唱団では、
第一声が出された瞬間に、指揮者、歌い手が
「あ、このパターンの響きだ」とホールの特性を理解し、
共有できれば安心して演奏することが出来る。

 ただ、人数が多い合唱団だと、
左右の広がりや、4列にも及ぶ奥行き。
 そしてステージの上で「鳴ってしまう」ことの危険な安心感もあり、
客席に届ける意識が希薄になることで
少人数の合唱団に比べると
「ホールの特性に合わせた」演奏は難しいのかも。

 ・・・ということを語ってくださいました。


 2)合唱とピアノ

 一般AB合わせて30団体。
 そのうち、ピアノを使用した団体が5団体。
 それだけでも客席で聴いていた地元:熊本の合唱人の方が
 「…ピアノを使う団体って、少ないのねー!」と驚くほどですが、さらに。

 「自由曲でピアノを使用している団体」は
一般Aで「合唱団まい」と
一般Bの「大久保混声」「岡崎混声」の3団体だけ。
 ですから今後、課題曲集ですべて無伴奏の曲を選曲されると・・・。
 ひょっとしたら一般の部では
 「ピアノがいらないコンクール」…になる可能性がある、かも。

 ちなみに打楽器使用が会津混声と岡崎混声。
 尺八使用が大分市民合唱団ウイステリア・コールでした。

 コンクールという場で、ピアノとの協演は
合唱との音量バランス、音色など、
なかなか難しく感じる演奏が多いのですが。
 これからこの傾向はますます進んでいくのでしょうか。

 2007年度は、打楽器を使う団体のほうが
ピアノより多かったりして?!


 3)曲のドラマ性と雰囲気

 今回のBグループでは自由曲の傾向が
 「ロングトーンでじっくり聞かせる」ような団体が多く
演奏もひとつの雰囲気だけで、表現をあまり変えないため
(つまり人物造形でいえばあまり奥行き、横顔が見えない)
7番目のなにコラまで、けっこう眠気が襲ってくることに(苦笑)。
 
 「コンクールが変わってきている!」として
演出や動きなどが普通のものになっていることが挙げられますが。
 それ以外にも岡崎混声のウィテカーもそうだし
コール・キリエのローリゼン、はもーるKOBEのカヤビャブなど
こういう明るめの曲調で、
不必要に緊張感を強いない、という選曲・演奏も
「コンクールも変わったよなあ〜」としみじみ感じてしまうことですね。

 確かに続けて15団体聴くのは大変疲れたけど、
曲の求める雰囲気がそうなっていないのに
課題曲から「身じろぎ一つ出来ない!」と感じさせるような団体って
ほとんど無くなってしまいましたから。

 20年近く前、札幌での全国大会で
あまりにも緊張を強いる演奏の連続で、
聴き続けるのがツラく、途中で気持ち悪くなって
ロビーのソファで倒れていたのとは隔世の感があります。

 ただ、58回大会の淀川混声:ローリゼンも
出だしは涙がこぼれるくらいだったけど、
やはりこういう曲ってドラマが作りづらいんですよね。
 結果、似たような選曲の他の団体も
残念ながら中盤から飽きてしまうことに・・・。

 「不幸な家庭のあり方は様々だが、
  幸せな家庭のあり方はひとつだ」

 …という言葉を演奏から思い出すことがあります。
 (個人的に、この言葉には疑問を感じますけど・・・)

 ローリゼンなど、そのような曲で、
最後まで惹きつけられる演奏をする指揮者、団体こそ
真に優れた合唱団と言えるかもしれません。

 第60回大会ではそんな演奏に出会えるかな?!



 2006年11月26日(日) 13:30から。
 熊本県立劇場コンサートホールにて。

 <銅賞受賞団体>

 コール・キリエ
 (神奈川県・関東支部・混声44名)

 聴くのは関東大会でかなり前に聴いて以来。
 全国大会初出場!ということで、おめでとうございます。
 以前聴いた時も、まっすぐに音楽へ向かう姿勢に
好感を持ったことを憶えています。

 課題曲G4:「いなくなる」はこの曲の持つ
やや難しいサウンドを良く表現。
 ただ、“アラ”が目立ちやすい曲なので
Bassの音色や歌い方、
他には繊細さと単なる弱さが一緒になってしまい、
「いなくなる」の世界をしっかり創り上げ、
観客に伝えるまでには至らなかったかな。残念!

 自由曲:Lauridsen「Ave Maria」は
こういう曲1曲でコンクールに挑むなら
もっと意識的に音楽の変化や、
心が昂ぶるだけではなく減衰の緊張感も大事にしたり、
フレーズが止まった印象にならないようにした方が
良いんじゃないかなあ、と思いつつ。

 この曲の持つ優しい世界を充分に表出していました。
 美しさが、ずっと続いていく。
 団員のみなさんが、どれだけの気持ちと歌を
この曲へ傾けているか、というのがとてもとても分かる演奏。



 合唱団Épice
 (宮城県・東北支部代表・混声41名)

 まるっきり私事なんですが札幌時代、
在団していた一般合唱団の仲間がこの合唱団にいて。
 ほぼ10年ぶりの再会でした。
 元気そうで良かったよ、Sくん!
 (まあ彼はこのHPの存在も、
  こんなことを書かれているとは知ることも無いだろうが 笑)

 この団体も全国初出場。
 「Épice」とはフランス語で「香辛料」という意味。
 この名前には団員各々の持ち味を活かし、
深みのある、そして時にはピリッと辛みの効いた演奏を
作って行きたいという願いが込められている、そうです。
 (プロフィールから)

 若い人が多い印象の団体。
 課題曲G1:Sancta Mariaは
ソプラノが繊細、というか単純に弱かったり、
テナーの発声がやや独特に感じられたり、
細かなニュアンスが不足しているようにも感じましたが
その音楽全体の設計には共感を持ちましたし、
なにより凄く 「上質な音世界」を目指している!
…という印象なんです。
 宗教的な祈りだけではなく、
音も響きも「天へ向かっている」というような。

 自由曲1曲目:Sommerro「Ecce Virgo(見よ乙女を)」は
いらないのでは?
 2曲目:Nystedt「O Crux(おお 十字架よ)」は
女声がロングトーンを保てないのが、かなりの傷。
 ソプラノは残念ながらやっぱり弱いだけの印象。
 そして若い団体にありがちなんだけど、
“興奮”の感情などは気持ちが入っていても、
頂点からの減衰の美しさが無いなど、彫りが浅く、
その場その場の表現だけで音楽の見通しが無いのが痛い。

 しかし女声に比べ、男声の支えと厚みは良かったし、
サウンドの狙い、Nystedt特有の透明で繊細な音響は
良く表現していた部分はあったんです。
 サウンドの狙うところにかなり好感を持ちました。

 女声の発声を鍛え(…今回、たまたま調子悪かったのかも?)
持ち味である繊細さを活かすための、
強さ、持続などを実現できれば、
これから楽しみな合唱団になるんじゃないでしょうか。
 がんばって!



 
 <銀賞受賞団体>


 混声合唱団はもーるKOBE

 (兵庫県・関西支部代表・混声52名)

 今回は平田勝先生の指揮ではなく、
若き岸本雅弘先生の指揮で。
 (今年だけなんでしょうか?)

 課題曲G3:とむらいのあとは。
 むむっ、岸本先生、指揮のアクションが大きい。
 それは別に構わないんだけど、
指揮の大きさと比べ、出てくる音楽のサイズが合わなくて。


 「もっと出さんかい!」
 「え〜、こんなもんでいいやろ?」
 「いやっ、まだまだ!!」
 「かなんなァ。…ほな、これくらいで・・・」
 「なっ、なめとんかーっ!!!」

 そんな勝手なアフレコを演奏聴きながらする私。

 「銃」のアクセントが強調しすぎに感じたり、
強音の支えや発声が不十分だったり、
ちと、いつものはもーるKOBEにしては
今ひとつの演奏だった、かな。

 自由曲Cayabyab「Aba Po,Santa Mariang Reyna」
 (慈しみ深き、天の女王よ)
 ソプラノの線が細く、
表情を変えられないのが気になったり
(ふくらみと潤いが欲しい!)
アルトのフレーズが保ちきれてないような。

 しかしテナーの良さと、
曲への素直な共感が感じられ、
声に明るさと、このエネルギッシュな曲にふさわしい
心地良い力感が生まれていました。
 自由曲は指揮者と合唱団との溝も感じなかったですよ!



 合唱団ノース・エコー
 (愛知県・中部支部代表・混声72名)

 課題曲G2:The Coolinは
男女入り混じる並び方で。
 いつものように透明なサウンドが心地良い。
 男声は歌に雰囲気がある、が・・・しかし。
 ソプラノが、おこちゃま、でありまして。

 「The Coolin(巻き毛の娘)」は情熱的な恋の歌。

 「たっ、互いに見つめあい、
  手に手を…すべりこませ、
  ため息を交わし、
  くっ、唇を ・ ・ ・ これ以上読めませぇん!」

 …とか含羞が似合うぐらいのお子様、ならまだしも。

 
 「いっしょにいておくれ、
  ぼくのこぉとにくるまって!
  そしてふたりでのもう、
  しろいやぎのちちを!!」  

 ぐらいに全部ひらがなで読んじゃうくらい幼かったら、
それは狭いゾーン狙いすぎでしょ、と言うか。
 これは「山羊乳のCMソング」?

 「恋の切なさ」みたいなものが感じられず。
 ノースって感情を歌に落とし込むのが
とても苦手な団体だから仕方が無いのかな・・・。

 かなり難しいと思う8分の12拍子のニュアンス、
フレーズや力感など感心する箇所はたくさんあったのに。
 ・・・とにかくソプラノがもったいない!
 あとせめて5才成長してチョーダイ!!


 自由曲Nystedt「Adoro te(主よ、あなたを賛美します)」は
さっすがあ、の出来。
 前の団体の「合唱団Épice」が同じNystedtを演奏していたので
どうしても比較してしまうのだけど。
 ロングトーンで分厚く重なっていく和音。
 その確固とした存在感と雰囲気、持続。
 クラスターから変化し、ハーモニーへ。
 そしてまたクラスター…という流れでも乱れが無い。
 テンションの設計もよく練られ、
一時の感情だけで音楽を造っていない印象。
 とても上等な、安定感ある演奏。

 ただやっぱりフォルテの発散や、
いわゆる「ケレン味」というものが無く、
難しいことをとても良くやっているけど。
 「うんスゴイスゴイ。 ・・・で?」と訊きたくなっちゃうような。

 毎年、ノースの北欧モノを続けて聴いているので
そろそろ違うものを求めたい、という気持ちもあるのかな。

 プロフィールでは京都の合唱シンポジウムに触れ

 「合唱で感動するというのはこういうことだったのか」と、
忘れられない演奏を多数経験しました。人の声のエネルギーと
可能性に圧倒され、合唱人の一員たる私たちに何ができるのか
考えさせられました。そして、まずは曲の持つ力を私たちの
身体から発する声で明確に伝えることをめざそうと思います。


 いい文章じゃないですか!

 私の中では「巧いだけ」の合唱団ノース・エコー。
 だけど今回の演奏では「Adoro te」の一箇所だけ、
以前のノースでは聴けなかったような
「前に出る」「伝わる」音、が聴こえてきたんですよ。
 …たまたま乱れてしまった音を、
勘違いしてしまった可能性もありますが。
(どこまでヒネくれてるんだ、オレ)

 プロフィールに書かれている言葉を、
もしも、ノースの多くの人が思っているのなら。

 ・・・また来年の演奏を楽しみにしようと思います。



 小田原少年少女合唱隊
 (神奈川県・関東支部代表・女声38名)

 課題曲F1:Ave Mariaは
音楽の設計にあまり手を加えず
やや一本調子な演奏。
 
 しかしこういう少年少女合唱団って、
微妙な表情付けなどをやり過ぎると
“あざとい”印象になってしまうので難しいですよね…。

 自由曲はLukás作曲「Venecek(花の冠)」
Kodály「Esti dal(夕暮のうた)」
lliev「Jabeshka polka(蛙のポルカ)」の3曲。

 最初のチェコの曲の愛らしさに魅了され。
 躍動感、リズムや声の変化など、
少年少女合唱団の魅力が充分に出ていました。
 コンクールではなく、コンサートのよう!

 素材そのものを出した課題曲の印象と比べ、
その素材を充分に生かし、良く料理したような自由曲。
 次回は、課題曲でその素材を生かしつつ、
大人の団体に匹敵するような音楽を創って下さるよう
期待しております。



 大分市民合唱団ウイステリア・コール
 (大分県・九州支部・混声41名)

 課題曲G1:Sancta Mariaは
全体的に声や音楽などが昨年より整備された印象。
 特に女声が澄んだ旋律を表現していて良かった。

 そして、自由曲:柴田南雄作曲「追分節考」。

 客席に下りていく男性団員たち。
 壁沿いに並び・・・。

 ホール通路を歌いながらねり歩く
男声ソリストたちの名歌唱をはじめ、
ステージ上での女声ロングトーンとの絶妙なバランス。
 その音空間を切り裂くよう、あるいは優しく包む
尺八の音色が効果的に絡み。

 この「追分」は荒々しく“異物”を押し付ける、のではなく、
優しく、繊細にそして遥か遠いところへ歌っているかのよう。

 ソリストでもあった団員:猿渡さんの掲示板書き込み

 今回、追分で我々が目指したのは、
 柴田先生が信濃の地を取材された際に、
 きっと感じられたであろう、風や木々のそよぎ、
 木洩れ日や山際の夕焼け空、
 そして現地の人たちの屈託のない笑い顔と温かい心、
 「日本にもイイとこあるじゃん、捨てたもんじゃないよ!」
 といったことをどのように表現するかでした。


 そう。ウィステリアが歌った場所はプロフィールにも書かれてあった
 「日本の原風景」なのでしょう。
 
 猿渡さんが書かれたような信濃の地、
その山道を歩く人の歌などが
控えめだけどそれ故あの演奏に確かに存在していました。
 殊更、強く、刺激的に表現するだけが
音楽、演奏では無いということに改めて気づかされ。
 さまざまに綾なす音楽。
 目の前に広がる故郷の風景。
 郷愁と言う他が無い感情。
 ・・・本当に涙が湧いてしまいました。


 もちろん、時間の都合ということもあり
「俗楽旋律考」などの重要パートを演奏しなかったなど、
本来の「追分節考」の姿から一部分を切り取った演奏と
言わざるをえないかもしれません。
 さらに狙ったものかわかりませんが
ある感情を観客に与えようとするためか、
本来即興的に選ばれるはずの音楽パートが
やや「決め事」のように感じられた、ということもあります。

 ただ、全体を余すところなく歌い、
即興的な印象もあった私が聴いてきた「追分」では
ここまで感情が揺さぶられることは過去にはなかった。
 いや、大分ウイステリアの演奏でこの曲が
ここまで「日本人としての琴線」を震わすものだ、
ということに初めて気づかされました。


 前述のように、本来の「追分節考」の姿からは
遠い演奏だったのかもしれません。
 しかし、その演奏が楽曲の一部分だとしても
「追分節考」その価値を新しく知らせてくれたということ。
 音楽が、演奏というものが、
あそこまで風景を甦らせ、
その世界にひたらせてくれる可能性を持っているということ。

 ・・・私は、あの時流した自分の涙を信じたいのです。



 大久保混声合唱団
 (東京都・東京支部代表・混声75名)

 自由曲:山本純ノ介作曲
 混声合唱とピアノのための「万象」から
 「5.蕃熟の大地  Finale〜玉名平野に寄せる想い」

 ・・・申し訳ないのですが、
数年前の感想にも書いたように
この手の曲の魅力、そして21世紀にこういった曲を
こういう演奏ですることの価値、というものが
残念ながら私には理解できません。

 ただ、確かな発声と表現。
 いわゆる“抜け”が無い演奏だなあ、と感心しました。
 そういう面では結果を聞いて
 「銀賞? ヘェ〜厳しいなあ」と思ったのも事実です。


 課題曲G4:「いなくなる」は私が聴いた中で一番の演奏!
 歌い回しの良さ、
曲の持つ雰囲気を充分に表現していたと思います。

 ただ、中間色的な和音はこの団体では難しいのかな…。
 も少し「サウンド」という考えで捉えて欲しかった。
 現代の曲を、オールドスタイルの感覚で
扱ってしまった、という印象。

 それでもアラが目立ちやすく、
なかなか演奏が難しい、この公募課題曲。
 ここまで自然な演奏を実現できたことは
賞賛に値するのではないでしょうか。
 合唱団の地力、というものを感じさせた演奏でした。




 <金賞受賞団体>


 合唱団ある

 (広島県・中国支部代表・混声68名)

 自由曲:久留智之作曲
 混声合唱のための「ハミングバード」から
 「3.アレルヤ(Alleluia)」

 ゾリステン・アンサンブルと同じく
前段階の中国支部大会を聴いてしまったのを
ちょっと後悔するような演奏。

 と、言うのは「笑い」を多く含んだこの曲。
 中国支部大会では前の席を陣取っていた中学生たちに
どっかんどっかんウケていましたが、
全国のこの会場ではやや「 ・ ・ ・ ・ 」という雰囲気だったのですね。

 それが「ある」の演奏、パフォーマンスの責任だけではなく、
“全国大会”という会場の雰囲気もあるだろうけれど。
 …でも、「なにコラ」はかなーりウケてたよなあ。
 あれは「なにコラ」が「なにかやらかしてくれる団体」として
客席で共通の感覚が既にあったから?
 それとも「なにコラ」のパフォーマンスが
やはり「ある」より優れていたから?
 ・・・などと演奏を聴きながら、
醒めた耳と目で、色々考えてしまう結果となってしまいました。

 「泣き」の感情もそうですが、ホント、
「笑い」を人にもたらすのって難しいですよねえ。
 でもこういう路線はコンクールではなくても、
演奏会や他の場所でも磨いていって欲しいものです。
 巧い合唱団は数あれど、
観客を文字通り「楽しませてくれる」合唱団って実に少ない。
 「ある」はそんな合唱団になる可能性を秘めていると思います。

 おっと。演奏は中国大会より、
動きと音の連動が密接になり、
途中で現れる日本語もクリアに聴こえるなど、
確実に一段階ステージが上がったものでした。


 課題曲G3:「とむらいのあとは」。
 他団体の演奏がどちらかというと
暗から明へ向かっていくような曲想と比べ。

 「ある」の演奏、ヴォカリーゼは広がりと深さを感じさせ。
 言葉が入る歌のはじまりから
光が射すような明るさがあり、
優しさにあふれていました。

 聴く者を圧倒するのではなく、
柔らかに、あたたかく、手を差し伸ばすような・・・。

 歌全体に満ちあふれる明るさが、
「銃よりひとをしびれさ」せた後の世界を表出し、
そこへ向かって歌っているような。

 後で聞くところによると、
この曲想は作曲者の信長貴富先生がおっしゃったものだとか。

 クール・シェンヌとはまた違った
この曲の名演だったと思います。
 それぞれの合唱団に合った、
それぞれの歌い方があって良い。

 しみじみとした感動を反芻しながら、
音楽の正解はひとつじゃないんだ、ということを
改めて感じさせる名演奏でした。



 岡崎混声合唱団
 (愛知県・中部支部代表・混声60名)
 文部科学大臣奨励賞・カワイ賞・シード団体

 課題曲G3:「とむらいのあとは」は
ソプラノが高校生ヴォイスだったり
バスの音程が気になったり、
フレーズの中の言葉の力感が
不自然に感じたりもしましたけれど
昨年より良くブレンドされた軽めのMix Voiceが素晴らしい!
 音に広がりがあり、ダイナミクスもメリハリがありました。


 自由曲:Whitacre作曲「Cloudburst(雷雨)」。
 運ばれた楽器の数がまずスゴイ。
 ピアノはもちろんのことバスドラム、ハンドベル、
ビブラフォン、ウィンドチャイム、そしてサンダーシート!
 (パッと見ただけなので使ってない楽器を書いたかも…)

 課題曲でも伝わった、充実した響きがロングトーンで鳴り、
雨、そして雷がまるで眼前のパノラマのように。
 展開する楽器の音、そしてハンドクラップ、フィンガークラップ。
(遠ざかっていく雨足はなかなかの名演でした!)
 
 低声部が高声部と、
もう少し合うような発声の方向性があれば、
全体の響きがもっと良くなるだろうな。

 そして文部科学大臣奨励賞(1位)ということで
本当に個人的な考えを書きますが。
 ぶっちゃけ
 「この曲は1位にふさわしい、深い音楽があるのか?」
…ということなんです。

 昨年、岡崎混声が演奏した同じくWhitacreの
「Leonard Dreams of His Flying Machine」は
今回は会津混声が演奏しましたが
岡崎混声とはまるで違った演奏に聴こえました。
 もちろん団の個性、発声やサウンドからの違いもあるんですが、
曲のとらえ方、構成も合唱団、指揮者によって
様々な顔を見せてくれる曲だからだと思うんですよ。

 ただ今回の「Cloudburst」。
 もちろん岡崎混声が高水準の演奏をしたからこそ、
とも言えるのだけど。
 次回の全国大会でもしも
自由曲にこの曲を選んだ団体があったとして。

 ・・・そう違った印象になるとは思えない、んですよ。
 例えもっと雨のように聴こえるハンドクラップがあったとしても。
 「それって音楽の領域?」と感じちゃうような気がします。
 ものまねコンテストじゃないよね、
この全日本合唱コンクールって?

 私はここのところ、学生団体の合唱に
あまり面白みを感じられなくなっているのですが。
 その理由を自分で分析するに、
学生団体の演奏はどんなに高水準な演奏でも、
その目指す目標、音楽の理想が
低いところにある演奏が多いからなんですね。
 だから一般団体で、
その理想や方向が高いところを向いていれば
実際の演奏がそれほど至っていなくても、
面白さを感じることができる。

 今回の「Cloudburst」は、
そういった「学生団体」的理想な水準で
“聴かせてしまう曲”なのでは、と思ってしまうのですよ。

 学生団体、そして単一のOB合唱団に対して
こんなことは書きません。
 が、岡崎混声は岡崎高校コーラス部OBだけではなく、
他一般の合唱人も入っている一般合唱団。

 そんなわけで、来年、より深い音楽性をもった曲で、
今一度金賞、そして1位を狙って欲しい、と思っているのです。

 おっと。演奏そのものは
ウィテカー特有の夢幻の響きを確かめるように、
叙情ゆたかに美しく演奏し、見事に世界を創り上げていました。
 あの会場にいた人たちは、
岡崎混声が繰り広げる音による大自然のスペクタクルに
魅了されていたんじゃないかな、私を含めて。



 なにわコラリアーズ
 (大阪府・関西支部・男声85名)
 日本放送協会賞

 課題曲M4:「小夜の中山」。
 まずユニゾンの軽やかな美しさ。
 そしてテノールの歌い回しがさすが!
 (伴奏パートになるとファルセットを混ぜるセンスなども)
 ホールいっぱい広がる響きにひたすらうっとりしていましたよ。
 狙った和音が安心して聴ける快感は“なにコラ”ならでは、ですね。

 自由曲Tormis「Nägemus Eestist(エストニアの未来)」。
 Bassの低音、迫ってくるような寒気の迫力!
パートバランスも良く、
断続のリズムから旋律に移る時の
声、歌い方の変化。
 1曲を通したテンションの設計が絶妙!

 2曲目の自由曲。
 Paakkunainen「Dálvi duoddar luohti(冬山のヨイク)」
 この演奏はスゴかった。
 1曲目のやや暗く緊張感ある印象とは打って変わって
リズミカルで楽しげなフレーズ。
 ステージ上に広がっていく団員たち。
 
 2003年の宝塚国際室内合唱コンクールでも聴いた曲だが 
 (※その時の感想)
帽子のおふたりの演技もコミカルだったし、
そして何と言っても

 「ホーミー集団」

 伊東さんの指揮に合わせ、唸りまくるその声は
客席からどよめきと笑い声を起こしていました。
 コンクールの演奏で、ここまでウケるのって
本当に凄いことです。
 退場で帽子おふたりの礼、なんてもうコンクールじゃなくて、
完璧な “なにコラ演奏会” で客席が沸く沸く。

 演出の面白さだけではなく、
なにコラの醸し出す雰囲気がそうなっているのでしょうね。

 ところで2007年度でコンクールは引退とのこと、なにコラ。

 もったいない! もっと
「コンクールでもここまでやれる!!」
ということを演奏で証明してくれよ〜、と思う気持ちもあります、が。

 ・・・2007年、最後の全国大会、
なにコラが何をやってくれるか本当に楽しみです。

 おっと、今回シードじゃなかったから(3位)
まずは全国出場を願ってますよ!!



 グリーン・ウッド・ハーモニー
 (宮城県・東北支部・混声60名)
 熊本県知事賞・シード団体

 課題曲G1:Sancta Mariaはゆっくり、丁寧に。
 テノールの声とバランスがちょっと気にかかったりしましたが
…なんでこの大人数で
ここまでポリフォニーが表現できるんだろう?!

 表現も自在な印象で。
 refoveは前に…!そしてサッと引き。
 ora pro populoからはゆったり、じんわりと温かく。

 このような曲を安定して聞かせ続ける今井先生と
合唱団の力量は本当に凄いと思います。


 自由曲Webern「Entflieht auf leichten Kahnen」
 (軽やかな小舟に乗って逃れ出よ)
 Schönberg「De Profundis(Psalm130)」
 (詩篇第130編「深き淵より」)

 毎回同じようなことを書いて申し訳ないのだけど
音程、発声に幅があるこの合唱団。
 サウンドとしてそれが狙っているものなのか、
単に「できていない」ものなのか、
混乱してしまいその魅力を私は充分に味わうことができない。
 無調の、微妙な音程の移ろいの緊張感が
充分に伝わってこない、と言うか・・・。

 ただ2曲目のシェーンベルクでは
表現の引き出しの多さ、
(speaking chorusと歌、その階層など)
緊張感の表出。
(ギリギリと身体を締め付けられるような!)

 説得力のある演奏だったと思います。
 その強さと迫力に圧倒され続けた演奏でした。



 MODOKI
 (佐賀県・九州支部・混声46名)

 課題曲G2:「The Coolin(巻き毛の娘)」

 合唱とまったく違う話で恐縮なのだけど、みなさんは

 「付き合い始めたラブラブカップルの車の後部座席に
  ひとりだけ乗り込んで5時間のドライブ」


 …てえのを経験したことがありますか?私はあります。
 あぁ、あの「いたたまれない」感じ。
 自分は何もしちゃいないのに恥ずかしくて消えてしまいたいような。

 そんな感覚が久しぶりに襲ってきたMODOKIの課題曲。
 なーんか“歌う前”の団員たちから
ぽわぽわした熱気、というか
そんな「レンアイ真っ只中」の空気が伝わってくるんです!

 演奏が始まると。
 おお。この柔らかく切ないまでのフレーズ感。
 気持ちの揺れ、心臓の鼓動がそのままリズムに重なるような…。
 そう、これこそ「恋の歌!」。

 残念ながら発声面で表現の目指すところに
やや追いついていない所がしばしば。
 テノールはこもりがちだし、
ソプラノも部分では開放的な明るめの声が欲しい時も。
 拍節感はとても上手くできているけど、
それでもやや作為的な印象が残ってしまう。

 しかし、この課題曲を選んだ団体の中で
一番の名演をしたことは間違いないでしょう。
 高校生、大学生の演奏は聴いていませんが、
この微妙な表現をMODOKIのこの演奏以上に
上手くできる団体があるとはちょっと想像し難い。

 その曲想、醸し出す雰囲気に
 「指揮者の山本さんってロマンチストだなあ・・・」と
感嘆のため息が思わず漏れ。

 この曲の最後の音。
 音、そして想いが空に消えていくような指揮が特に印象に残りました。

 後にネットを巡回していると
MODOKIはこの曲に対して「男女のペア」を作り
向かい合わせで、そして手をつないで(!)
歌い合うなどの練習をしたそうで。

 なるほど、あのラブラブの雰囲気は
そういう練習から生まれたものなのかねえ、などと。

 あ、団員さんの書き込みで他に

 「○○さんと組めて、良かったです…」

 なーんてペア同士のやり取りが目に入った時

 「世界が今、滅びればいいのに…!」と思った私は心が狭いです。
 ・・・春ですね・・・。


 自由曲Karai「De profundis(深き淵より)」
 こういった自由曲はMODOKIお得意の路線。
 暗く、重く、熱い情念が、徐々に迫って来るような音楽。

 フォルテの説得力、ピアニッシモの緊張感と
ダイナミクスに大きく幅はあってもテンションは落ちることなく。
 その表現の強さが、
どう聴く者に影響を与えるか、実によく練られている印象。

 やはりソプラノに人数不足からの力の無さを感じてしまったり。
 クライマックスでクラスターから
決まった和音に収斂する箇所。
 あそこで予想できる音楽だったのが「モッタイナイ!」なあ、などと。

 しかし様々な技巧を凝らしながらも
1曲を通して確かな聴き応えを感じさせ、演奏が終わった後
「受け取った!」という気になるのがMODOKIの演奏。

 Bグループになって初の金賞でしたね。おめでとうございます!


 以上で2006年度の全国大会感想を終わります。
 まったく鍛えられていない耳である私の、
勝手な感想にお付き合いいただきありがとうございました!


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