演奏会感想の部屋

 

      なにわコラリアーズ第10回定期演奏会


      
2004 5・4  18:00〜 大阪・いずみホール


 あいにくの雨。
 ホテルを出ると白い飛沫が大きく道に跳ねているほどの。
 座席券を取るため早めの16時頃「大阪ビジネスパーク駅」に着くと小降りに。
 川沿いに少し歩き会場の「いずみホール」へ。
 階段を上ると・・・雨の中、長蛇の列だ!

 16時半から座席券との交換がはじまり、無事に座席券をもらう。
 近くのコーヒーショップで時間を潰し、
開場の17時半になったところで再び会場へ。
 おお〜、当日券を求める人と入場する人で入り口はごった返している。
 この人達、みな入れるのかなあ?
 (後で聞くと雨のせいか、客席に少し余裕ができ全員入場できたようだ)

 大きなシャンデリアが相変わらず輝くいずみホール。
 2階席はともかく1階はぎっしりだ。

 18時を少し回ったところで開演を知らせる音楽。
 54人のなにコラメンバーと指揮者の伊東恵司さんが現われ
客席は大きな拍手で出迎える。


 第1ステージ

 Muistse mere Laulud(古代の海)
 /V.Tormis


 「作曲者トルミスの故国エストニアは古くからバルト海と共にあった」
 (プログラムより)
 曇天の下の暗い、黒い海を見せるかのように
ベースが呪文のような短い旋律を繰り返し、他パートが重なり
海とそれにまつわる人間の様相を描いていく。

 見事なテノールソロ、かけ声「Ahoi!」
 鳥や動物たちの鳴き声「kajak kajak kajak」などを
効果的に挟み、音楽は進んでいく。

 なんと言ってもテノールの素晴らしさは変わらず。
 ファルセットをまじえる高音は水を含んだように、
男声なのに男声ではない艶、色気すらも感じさせる。

 昨年は若干テノールに比べて
旋律の歌い方などがやや消極的だったベース系も
充分「うた」が前に出る。浮き上がる。響く。

 緊張感を最初から高め、ホールを存分に鳴らしたなにコラは
観客の拍手を求めずそのまま次の曲に。

 Slovenska Piesen(スロヴァキアの歌)
 /E.Suchon


 昨年のコンクール自由曲でも演奏されたこの曲。
 「この作品は、貴族の圧政に苦しむ民衆の反発をうたった詩に、ナチスの支配から
雄々しく立ち上がろうとするスロヴァキアの姿を重ね合わせたもので、祖国の解放と
いう作曲者の強い願いが込められている」
 (プログラムより)
 前曲と対比するように、明るめの曲調で自由を歌い上げる。
 
 ユニゾンの上手さ、途中のリズミカルな部分は心を騒がせ。

 昨年のコンクールでも歌ったためか、トップテノールは暗譜の団員も多く、
後半、旋律の間隔を徐々に短くし、
切迫したクレッシェンドを余裕で盛り上げ高める!

 チェアマン(代表)・片山さんのプログラムでの宣言通り
 まさしく「スタートから全開で行」く演奏。




 第2ステージ

 「いつからか野に立つて」(作曲・木下牧子)


 昨年、信州大学グリークラブで初演された
私も聴くのを焦がれていた木下先生待望の無伴奏男声合唱曲新作。

 テキストに選ばれた高見順氏の6つの詩は
悲しみや痛み、憎しみ、苦しみなどの負の感情を取り上げ、
そこから始まる動きを描くものが多い。

 「虹」

 なんて柔らかい音と旋律!
 旋律を空気に浮かばせるような歌い方。
 その旋律に内在するリズム。

 自然な、気負いのない姿勢が
この詩と音楽との世界に隙間無く寄り添う。

 悲しい思いを昇華させ虹にするように
味わうように、確かめるような甘いピアニッシモで。

 「彼」では明るい曲調と軽やかなリズムでやや怖ろしい言葉を。

 (彼は年柄年中何か書いてゐる。
  彼は心が病気だからだ。
) ・・・歌詞の伝わりが明晰だ!

 「葡萄に種子があるやうに」

 ひとつのフレーズの長さと優美さ。
 詩の中の語句、“酒”の和音で広がる、
自分の心を見つめ、祈るという感情の表出。

 「光」

 激しいリズムの鋭い切れで
「憎む」という言葉を前に出し、聴くものに打ち付ける。

 「天」

 持続する和音、そしてそれがゆっくりと閉じていく美しさ。

 「いつからか野に立つて」

 軽やかに音楽を前に進める知性とセンス。
 「彼」「光」でも感じたリズムの切れがどんどんうねり、迫り、
最終曲にふさわしく華やかな締めくくり。


 会場には木下牧子先生もいらっしゃり、立ち上がってご挨拶。
 その日の打ち上げの席でも、そしてご自身のHPでも
大変この日の演奏を賞賛されていた。
 
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本当に良い演奏会でした。「いつからか野に立つて」素晴らしかったです。「美声」
「正確なピッチ」「音楽のセンス」と三拍子揃った合唱団ですね。
4日のなにわコラリアーズの演奏会は男声ハーモニーの声の素晴らしさはもちろん、
音楽的にもとても充実していて感心しました。「いつからか野に立つて」は譜面は
シンプルですが、短い曲の中にかなり濃厚なドラマがあるので、とても難しい曲とも
いえます。なにコラの演奏はとても骨格のしっかりした演奏で、多彩な表情の変化、
フレーズのダイナミックな流れもあって聴き応えありました。作曲者としては本当に
うれしかったです。
 
全体としてプログラムがとても凝っていてアレンジ物も質の高いいい作品を集めて
有るのに感心しました。知的で洗練された演奏会でした。定演でこれだけのことが
できる底力は大したものだと思います。

 
 <なにコラ演奏会後の木下牧子先生HPトップページより>
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 私には若干、フォルテッシモなどで余裕を見せつけ過ぎる、ような。
 知性が前に出るあまり、音やダイナミクスに感情がやや伴わず
「なにコラ」の姿が少し遠く感じられるような思いもあった。

 しかし「負」の感情をそのまま詩に、音楽に乗せずに
ある一点で変換し昇華させたこの作品で
なにコラの姿勢は木下先生が賞賛されたように
作品の姿をくっきりと浮き彫りにした。
 しっかりした構成、多彩に移り変わる和音の妙、旋律の長さと柔軟さ。
 悲しみに沈みこまない対象への距離感と微かな哀しい笑顔。矜持。
 男性/男声ならでは、の世界。

 この作品に流れる空気を見事に表した演奏だったと思う。




 休憩の後、第3ステージ。

 Canticum Sacrum Nipponicum
 「Dixit et Magnificat」(作曲:千原英喜)

 なにコラ10周年を記念する委嘱作品でこの日が初演。

 グレゴリオ聖歌を思わせる旋律から始まり、
団員による鈴や小さな銅鑼も間に演奏。

 千原先生の曲は「西洋と東洋の交差」というのを
非常に感じさせることが多いのだが、
この曲も西洋の宗教音楽から始まる中、
間宮芳生氏の「コンポジション」のように
日本の土俗的なかけ声、日本民謡風の旋律が随所に。

 しかしテキストは全くのラテン語典礼文なので、
個人的には交差、というよりも
日本(東洋)が西洋の世界を浸食し、乗っ取る。
 失礼なことを書けば
 「Dixit音頭」
 「Magnificat音頭」とでも言うべき違和感が離れなかった。

 ただそのかけ声と民謡的旋律。
 西洋的な響きとの歌い分けや表現力は
そこいらの合唱団には決して表現できないほどの高み。
 



                
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