演奏会感想の部屋

 

 

 第4ステージ

 〜アラカルトステージ〜 今度こそ歌える?!


 昨年は「これなら歌える?!」と題したものだったが、
伊東さんの予告通り “今度こそ” との題名。
 …でも「?」が相変わらず存在するのが気になります…。

 昨年と同じく、6人のアンサンブルの後、「鯉のぼり」を。
 2コーラス目で、他の団員が客席から歌いながら入場!
 何人もの団員で掲げる大きな鯉のぼりがいくつもステージを泳ぐ。

 昨年と同じ軽妙な司会は
 「司会は私、“あの”早稲田大学出身の高橋守でございます」

 ・・・・。

 最初の
 Laulaisinko laulun sulle(私はお前に歌を歌おうか)
 /S.Palmgren


 …は、小アンサンブルをいくつも作る形で。
 爽やかな抒情とテナーの絡みが良いステージの出だしを。

 Hitaat ja karseat hautajaisvalssit
 (ゆっくりした厳粛な葬送ワルツ)
 /J.Mantyjarvi


 「不思議なワルツ」?!と説明されると、
「Hon − Han」の繰り返しで響くリズムが効果を上げ。
 その上に流れるトップテナーのメロディが軽やか。
 音の重ね方と響きに魅了される。

 この1曲だけ指揮者が伊東さんから前川氏に代わり
 Sua Tervehdin(セレナーデ)
 /G.A.Hartel


 昨年指揮をされたラウタヴァーラとはうって変わって
優しく柔らかい小夜曲(セレナーデ)。
 地上から、恋人のいる2階の窓まで歌を届かせるように。
 いずみホールの天井まで美しくふくらむ旋律と響きにうっとり。

 演奏が今年で5年目という
 J.Sibelius作品のSydameni Laulu(我が心の歌)
バリトン、ベースの磨かれた深い旋律が印象に残る静かな世界。

 Hustz(フスト)
 /Z.Kodaly
は今日一番のフォルテッシモで震わせる。

 Greensleeves(グリーンスリーヴス)
 (R.V.Williams編曲)


 静かなバックコーラスの元、テノールソロがあの哀しく美しい旋律を。
 合唱はバスの主旋律でも、粗くならずどこまでも柔らかく。
 テナーとベースが旋律を繰り返し、呼び返しすると。
 …客席は物音ひとつしない静寂に包まれる。 

 Gentle Annie(やさしいアニー)
 (R.Shaw&A.Parkar編曲)

 フォスターの名曲を団員のギター伴奏で。
 軽やかで美しいユニゾンに
控えめなギターの響きが絶妙に絡む。

 Betelehemu(ベツレヘム)
 /アフリカ民謡


 団員がステージいっぱいに広がり、
指揮者を挟み、アフリカ太鼓奏者となる2人の団員。
 「Be・te・le・he・mu…」と低音域で繰り返されるものに
トップテナーの旋律が入っていく。
 アフリカ太鼓も激しさを増すと、
明るく力強い旋律がホールいっぱいに響き、鳴り、
リズムに合わせて腕を振り、足を上げ、行進する団員も!
 さらに手拍子も加わり盛り上がる盛り上がる〜。
 しっかしよくこんな曲見つけてくるなあー!

 Ev’rytime I feel the Spirit(精霊を感じるたびに)
 (Spirituals)


 有名な黒人霊歌を、柔らかいユニゾンから始まる意外な編曲で。
 テンポは遅く、そして歌いながら団員が客席に降り、
ステージから客席の横の壁まで1列に並ぶとテンポアップ!
 音楽も強さを増し、ソリストが左に行き、右に行きしながら熱演。
 それに応えるように合唱も大熱演で終了!


 もちろんアンコールを求める拍手がその熱い空気を引き継ぎ。

 伊東さんの言葉が始まると一瞬でその拍手は止む。

 「第1回か2回の演奏会でやった、
  思い入れがあるこの曲をアンコールに」

 Dixie
 (アメリカ民謡、福永陽一郎氏:編曲)


 ・・・この曲にはただ、美しい、という言葉しか出てこなかった。


 2曲目のアンコールは昨年と同じく黒人霊歌の
 Ride the Chariot



 大変見事な、実に完成度の高い演奏会だ。
 昨年よりも技術的に進歩した、というかこの段階までくれば
私などには文句の付けようがない。
 全国各地の男声女声混声少年少女合唱団、全てのアマチュア合唱団で
これだけの曲をここまでの水準で演奏できる合唱団が
いったいどれほどあるのだろうか?
 しかもこの「なにわコラリアーズ」はメンバーが集まりにくい社会人の男性、
そして遠隔地団員もかなりの割合を占めているのだ。驚嘆の一言。

 もちろん、それを支えるのは原木から仏像を彫り出すがごとく
 (ただし斧やノミは使わず、布で原木を無限に擦って形作るような…)
過酷な練習と意識の高さと熱意が背景にあるのは言うまでもない。

 ただ全く個人的に、やや物足りないな、と思ったのは
第2ステージでも感じた「距離感」。
 フォルテッシモやそれに向かうクレッシェンドでも歌う側は興奮していない。
 作品を見通す知性と冷静さが指揮者はもちろん、
団員全員に浸透していて余裕すら感じさせ、
その反面音楽の着地点まで見えてしまうことが何度かあった。

 「感動」とは「“感” 情が “動” く」…と書くが、
そういう意味では第3ステージの激しい曲想の「Hustz」でも
楽しく明るい演出付きの「Betelehemu」でも
心が沸騰する、というほど感情が動くものを残念ながら感じられない。

 どちらかというと歌う側は観客に歌っているのではなく、
高次の存在に向かって歌っているような印象。
 ステージ上の「なにコラ」がこの日は少し遠い。

 「合唱バカ」ならいいが、「バカ合唱」はいただけない。
 ・・・そう思ってきた自分だが、あまりにも知性や才気が前に出てしまうと
これだけ技術的に素晴らしく文句の付け所が無い演奏でも
血流が激しくなるどころか、心が沈黙してしまうのだなあ、と。
 そうすると「ブラボー」が思わず出てしまう演奏というのは
知性や計算を超えた、頭の悪い「バカ」…いや本能の部分から出る魅力なのかも。


 しかしその「距離感」が作品の世界を明確に浮き出していたのも事実。
 そして静かで優美な曲想の例えば「虹」「葡萄」「天」、
「Sua Tervehdin」「Greensleeves」
さらにアンコールの「Dixie」
…などの曲では揺れる心がさらに動くのではなく、
演奏の力で止まり、静まり、この大人数がいる会場で
この美しい音楽と自分一人だけが対峙しているような錯覚まで感じた。
 「感静」…という言葉があるならば、今回のこれらの演奏にふさわしい。
 ここまで心を静止させる演奏は、なかなか聴けない。


 もちろんこれほど率直に書いても大丈夫だと安心できるのは。
 そしてこれだけの様々な思いを抱かせるのはそれが「なにわコラリアーズ」だからだ。
 既存の「日本の男声合唱」というイメージを覆すその演奏を、
本当に少しでも多くの人に体験して欲しい。
 昨年、三重県・津での全国大会で
地元の合唱人が感激の面持ちでこう叫んだように。

 「…このホールで“なにコラ”が聴けるなんて!」




 打ち上げの席上でも、指揮者の伊東さんは
 「この仲間で、ここで歌える喜び」…というものをしみじみ語っておられた。

 私もチェアマンの片山さんにお会いしたかったが、
東京へ転勤になり、遠隔地団員となってしまったため、
残念ながら今回のステージには乗れなかったということ。

 ここでこの日のプログラムから伊東さんの言葉を抜粋したい。




 A面) 目を開き〜

 いま、「合唱において一番大切なのは?」と問いかけられれば、即座に「仲間」と「想像力」
と答えるでしょう。10年とちょっと前、仲間と声をかけあって創設した合唱団でしたが、多忙な
メンバーが一人、また一人と関西を離れて行ってしまう度に、このまま誰もいなくなってしまうの
じゃないか?と、身を裂かれるような辛い思いをしてきたものです。「もう、これまでか」と
感じながらも何とか踏ん張ってこれたのは、世界のどこかで同じように呼吸をし、奮闘している
仲間たちのことを想像し、彼らが(聴きに、歌いに)帰って来たいと思う場所を残したい・・・、
という思いに支えられてきたからかもしれません。
 ありがたいことに、逆に数多くの新しい仲間との出会いを繰り返し、いろんな場所から見守って
くださった皆さんの暖かい視線や声援に励まされてきました。身の丈に合わないチャレンジも
繰り返しましたが、幸いなことに様々な先生方からアドバイスを受けることも出来ました。合唱を
続けることに伴う試練の全ては、仲間の大切さ、想像することの大切さを私の心の奥底に刷り
込んでくれる為の仕掛けだったのかもしれません。音楽の恵みと豊かさに思いを馳せる為の
プログラムであったのかもしれません。合唱は一人では出来ません。表現することは決して
自己完結せず、他者への働きかけを伴うものでしょう。そんな当たり前のことの数々に気付かせ
てくれる過程が「なにわコラリアーズ」の歩んできたプロセスでもあったと言えるのです。
 本日もまた、多くの眼差しに感謝し、「仲間と歌える喜び」に勝るものはないのだという気持ちを
込めて、明日のことも省みず!声がかれるまで力一杯たくさんの歌を歌いたいと思います。




 昨年、なにコラ演奏会の打ち上げが終わり、
少々酔いの回った伊東さんが駅に着き、
かたまっていた数人の団員の姿を見かけると突然
 「いいか! 死ぬまで歌うからな!!」…と叫ばれた。
 ハイハイ行きましょうね、と横にいたお目付役の団員に腕を引っ張られ、
残された団員が顔を見合わせ苦笑していると今度は頭上から

 「死ぬまで歌うぞ! 歌うからなっ!!」…との声。
 エスカレーターに乗った伊東さんが身を乗り出し叫んでいた。


 今年、打ち上げが終わる頃
「NCX」と彫られた10周年を記念するバッジを頂き、
 「なぜこの形なんですか?」と尋ねると
 「…いろいろありましたからねえ」と笑って答えて下さった団員の方。
 なにコラ20周年、30周年、そして40周年にもしバッジが存在するなら、
それはどんな形なのだろう。

 涙型のそれは、部屋にかけたジャケットの胸で銀色に輝いている。

 

 

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