演奏会感想の部屋

 

 

 第2ステージは「閑話休題」
 副題が「合唱曲の変遷と世界の旅」と名づけられた
岩本達明先生指揮のステージ。

 昨年8月での東京公演プログラムに
MIWO中学校公演の内容を書いたところ
(私の感想にもその内容は記載しています)
 「そのようなステージをみてみたい」
 …という感想が来たのだとか。

 学校公演をする合唱団は全国にいくつかあると思うのだけど、
そういった合唱団にとって実に参考となり、
私たちのような一般の観客にももちろん楽しめるステージだった。

 それではどんなステージか実況中継を!


 …篠笛の音とともにホールの扉が開き、
客席から日本古謡「さくら」を歌いながら入場する女声たち。
 ステージ衣装はフォーマルなものからカジュアルな黒の衣装に。

 その「さくら」は各人で出だしを違えながら歌っているため、
旋律が、音が擦れ合い、会場は不思議な「さくら」の響きに満たされる。
 ステージに上りそのまま「さくら」が続く中
さらに客席後方から入場した男声が斉唱で荒々しく
岩手県民謡「南部牛追い歌」をステージ女声の「さくら」にぶつける!
 岩本先生が女声の指揮をすると、男声はステージへ移動。
 そして袖から聞こえてはいたが姿は見えない篠笛の音が大きくなり・・・
・・・笛を奏でる大谷研二先生登場!(ホント、なんでもヤリますなあ〜)
 ふたたび「さくら」の演奏でこの曲を締めたあと、
このステージの趣旨をお話しする大谷先生と岩本先生。

 《合唱曲の変遷》と題された続く3曲。

 まず1曲目はニーシュテットの『来たれ、甘き死』
 バッハのコラールをアレンジしたものだが、
まず最初に演奏されるオリジナルのコラールが良い!
 たっぷりとして荘厳な雰囲気が特に男声であり
「このままオリジナルだけ聴いていたい!」と思うほど。
 そして合唱から4人の指揮者が出て、
各ブロックをずらして振り、現代的なクラスターを作る。
 楽譜ではそのまま終わったはず…と思ったが
今回は最後に1フレーズ、オリジナルをハミングで静かに締める。
 こんな終わり方もセンスが感じられ気に入りました。

 続いてラーベ作曲の『ロンデス』(Rondes)。
 こ、この曲は説明が難しいな…。
 図形楽譜も取り入れているというこの曲は、
演奏者の喧騒から始まり、
足を踏み鳴らす、ロングトーンで母音を変化。
 吐き出す息がリズムを作ったり。
 その他舌を出し入れ、唇をぶるぶる・・・。
 人間が出せる音の見本市〜!のような曲。
 最後はMIWO団員さんそれぞれの電話番号と住所を絶叫!
 (その住所で東京から参加の団員さんもいる、と後で話題に 笑)

 あ、譜面台を奪い袖へ逃げちゃう男性なんて演出もあったり。
 これも楽譜に指定されているのだとか。スゴイ曲ですねえー。

 そして3曲目は新谷祥子作曲『You can do it』
 岩本達明先生のプログラム解説から抜書きすると、

 新谷祥子作曲『You can do it』は、できあがって2年しかたっていない曲です。
作曲した新谷祥子さんは、夫のクリストファー・ハーディー氏とともに、国際的に
活躍している打楽器奏者であり、初の出版作品となりました。作曲の過程では、
私もいろいろ議論に参加させてもらい、素晴らしい作品になったと思います。
おかげさまで、日本中の若者達が喜んで演奏し始めているという報告を
受けています。ボディー・パーカッションというジャンルに入るかと思いますが、
目を凝らしてお聴きください。


 逆三角形の3群に分かれたMIWO。
 吹き鳴らされたホイッスルを合図に
そのうちの一団が「You」!「Can」!「Do」!「It」!と断片に叫びつつ、
足踏み、ひざを叩く、手拍子・・・と
多彩なボディー・パーカッションを繰り広げていく。
 そのリズムに呼応するように、
他の群もリズムをズラし、追いかけ、
やがて3群のリズムがぐんぐん高まって終わりに揃って

  You can do it!

 「かっけー!」…という言葉が思わず出てしまう曲。
 合唱部だけではなく吹奏楽部でも
やってるトコロがあるのというのも納得の曲です。

 ・・・この解説を読んでやりたくなった合唱団もあるのでは?
 音楽之友社発行の教科書、
 「新高校の音楽1」「新高校生の音楽1」の2冊に掲載されているそうですよ。

 個人的に、他の群がリズムを叩いている間、
静止し、待っている群が、右手をビシッと伸ばした
「キメッ!」ポーズなのがカッコイ〜♪
…と思いました(笑)。


 つづく4曲は《世界の旅》と題されたもの。
 世界各国の音楽を楽しむ、というステージ。

 最初はイギリスの作曲家:ギレス・スウェインが
アフリカの民俗音楽の音を意識して作曲したという
『Magnificat』
 マ・ニ・フィ・カー・ト、と切れ切れに発音される、
各パートの跳ねるようなリズム、旋律、
2重合唱の絡みが面白い曲!
 Bassのアフリカっぽく土俗的なオスティナートが気に入りました。
 コンクール自由曲にアクセントとして使っても良いのでは?!

 ミュージカル「CAT’S」で有名な作曲家:ロイド・ウェッバーの
「レクイエム」から『Pie Jesu』
 この演奏はソプラノのソリストと
大谷先生がカウンター・テナーとなり、2重唱で。
 オルガン、チェロも加わり、旋律がさすがの美しさ。

 スペイン民謡『ラ・クカラーチャ』
 「ゴキブリの歌」という意味だとか。
 岩本先生が拍子木(クラベス?)を鳴らし
大谷先生、今度はマラカスを振りギターを奏でる!
 (・・・もうKENJI が何をやろうと驚かない・・・)
 色とりどりの手袋をゴキブリに見立てた踊りも楽しく、
陽気で明るい曲と演出でした。

 このステージ最後の曲はアルヴェーン作曲の
 『あなたは踊りの輪の中に』
 スウェーデンのダンスをもとに作曲されたこの曲。
 今までの流れとは違い、ややオーソドックスな雰囲気。
 ちょっとMIWOにも疲れが出たかな・・・と演奏に感じはしたけど
出だしの音の響き、軽やかにステップを踏むような、
速いテンポで奏でられる楽しい曲は魅力たっぷり。


 私が中学生だったらぜひとも体験したい!と感じるこのステージ。
 大切だと思うのは3つあって。

 まず『視覚的演出』
 若いうちは感覚の中で「見た目」、
すなわち「視覚」が心に影響する割合が多いのでは。
 ただ立って歌うのではなく、
テンポの良い演出を含めたステージングは
さぞかし強く深い印象を与えると思う。

 ちなみにニーシュテットの作品では4名の指揮者が出ていたが
MIWOぐらいの団体なら音楽的、技術的には
そこまでの指揮者はおそらく必要無いことだろう。
 観客へ「ひとつの旋律がずれ、クラスターを造っていく」
 …という音楽の意図を容易に理解させるための指揮者4名だったと思う。

 『“合唱”を越えた音楽』
 それぞれの分野で
そのジャンルの境界線を考える表現者の作品は興味深いことが多い。
 ただ漫然と“合唱”するのではなく、
声そのものを様々な作品から多角的に取り上げる。
 このステージから「合唱」を通じ、
さらにその先の「音楽」というものを色々考えてしまった。

 そしてなんと言っても『歌』
 あれだけ速いテンポの演出、様々なスタイルの曲を混ぜても、
歌が損なわれない。
 常に歌へ生命が漲り、常に深い叙情とあたたかな眼差しがある。
 演出を加えると、肝心の歌が疎かになってしまう演奏が多い中。
 MIWOはしっかりと歌を歌い、そしてその歌が演出と拮抗して
確かな説得力を持つことの凄さ。

 学校公演は成功させるには難しい要素が多いと思うが
MIWOが実現しているこの3つがそのステージにあれば、
かなりの確率で成功を約束されることだろう。
 客席にいた多くの高校生たちも、
とても楽しみ、そしてその音楽に感じ入っているようだった。



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