演奏会感想の部屋

 

 
       Friendship Concert in Vega 
      〜宝塚国際室内合唱コンクール出場団体による演奏会〜


     2004年7月25日(日) 午後1時開演 

     宝塚ベガ・ホール



 このコンサートが開催された理由は、プログラム中の
音楽評論家・日下部吉彦氏の文章を抜き出すのが一番良いだろう。
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 “7月はやっぱりベガ・ホールで”


 室内合唱専門のコンクールとして、国内では最も長い歴史と伝統を誇る
《宝塚国際室内合唱コンクール》は、昨年第20回を迎え、それを契機に以後、
隔年開催ということになりました。そのため、今年のコンクールはないわけです。
 これを聞いたコンクール常連の合唱団から、早速声が上がりました。《毎年、
ベガ・ホールで逢えるのが、なによりの楽しみだったのに、残念。有志の合唱団に
呼びかけて、自主コンサートをやろう》と、まっ先に手を上げたのはヴォーカル
アンサンブル《EST》。そして、またたく間にきょうの7合唱団が勢ぞろいしました。
 いずれもコンクールでは入賞の常連組。いまや全国、海外にまでその名が
知られる合唱団ばかりです。コンクールでは、互いにライバル関係ですが、
きょうは勝敗をはなれて、1年ぶりの再会を楽しむ《フレンドシップ・コンサート》と
いうことです。
 例年のコンクールではみられぬ、友情とハーモニーの交流が、ベガ・ホール
いっぱいに響きわたることでしょう。とても楽しみです。
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 出場団体は以下の7団体。(出演順)

 あふみヴォーカルアンサンブル(滋賀)
 アンサンブル アカデミー 京都(京都)
 Ensemble Vine(京都)
 合唱団まい(長野)
 クール・シェンヌ(奈良)    
 なにわコラリアーズ(大阪) 
 ヴォーカルアンサンブル《EST》(三重) 


 ベガ・ホールは昨年もコンクールを聴きに来たが、
レンガの壁、正面のパイプオルガンとステンドグラス、と
大変落ち着いた良い雰囲気の小ホール。
 372席と席数は少なく、そしてこの錚々たる出場団体!
 …ということでこの演奏会のチケットは
「あっ」という間に売り切れてしまったそう。

 私もチケットを入手する前に、
その「売り切れ!」の報を聞いて呆然としていたのだが
某出場団体の某団員さんが「一応、勝手に1枚押さえて」おいてくださったため
幸運にも聴くことが出来た。某さんに改めて感謝!
(入り口には「当日券」の張り紙を見つけましたが
 …販売されていたのでしょうか?)

 演奏前に司会役の洲脇光一先生と、
その合唱団の指揮者や団員さんが話をしてから演奏を開始する、
という和やかな雰囲気の演奏会。

 プログラムを見てちょっと驚いたのは、
「宝塚国際室内合唱 “コンクール” 」では
20名以下で出場の制限がされているため、
比較的大人数の合唱団でも団内アンサンブルや、
混声でも声部を分けたり、人数を絞って出演していた。
 が、今回は「コンサート」ということで、人数制限はない。
 そのため、フルメンバー、40人ほどの“母体の”団体がいくつも出演し、
この少人数にふさわしいホールで、どんな演奏が鳴り響くのか、
演奏を聴く前から興味が非常に湧いてしまった。


 それでは順に感想を。

 『あふみヴォーカルアンサンブル』(滋賀県長浜市)
 女声7名・男声4名(プログラム上では15名)

 琵琶湖周航の歌 (吉田千秋:作曲,石井茂子[あふみ]編曲)
 Sing Joyfully (W.byrd:作曲)
 「Mass for four voices」よりKyrie、Gloria 
 (W.byrd:作曲)
 Le chant dex oyseaux (鳥の歌)
 (C.janequin:作曲)
 さくら (森山直太朗:作曲,石井茂子[あふみ]編曲)



 団名の「あふみ」とは「琵琶湖」を意味する
「淡海(あはうみ)」が転じたものだそう。
 98年の発足以来一貫して指揮者を置かず、
各団員の音楽的感性のぶつけ合いと融合をモットーに
音楽作りをしているのだとか。
 このコンクールでは2002年の混声合唱の部で
初出場にして金賞受賞、ということ。


 「琵琶湖〜」は女声の優しい響きが共鳴し、ホールの高い上にまで広がる。
 最初の団体なためか、音程が全体に不安定。
 バスがビブラートを多用する発声で、その分
「アンサンブル」としての一体感ある響きへの追求までには至らないような。
 「Sing〜」のようなポリフォニックな曲だと、
先ほどまで感じていた欠点が薄らぎ、個人個人の歌に対する積極性、
表現が活き活きと前に出るように。
 「Kyrie」からは音楽の精度が別団体のように上がり。
 指揮者はいないということだが
音楽的なリーダーであろうテナーの男性がとても良い音楽の開始をし、
途切れず、精妙に繋がっていく線、そして徐々に、自然に高まっていく音楽。
 「Gloria」では、その指揮者がいない弱点が出たか
静かな中間部は格別工夫もなく、テンションが落ちてしまい、
ただ流れるだけの演奏になってしまった。
 後半のかけ合いはとても良かっただけに残念。
 「鳥の歌」は素晴らしい演奏。
 弾むかけ合い、アンサンブルの良さ。
 借り物ではなく自発的なものなのに、
どの表現も紳士・淑女的に品があり、優しく柔らか。
 難曲なため、雑に、勢いで進めがちなこの曲を
しっかりと、どのパートもどの表現もクリアに聴かせてくれた。これはスゴイ。
 細部の表現だけではなく、
音楽全体では拍節のリズム、重心もしっかりと流れに乗り、
後半にテンポアップしても、その重心が揺るがない! いや〜良い演奏でした。
 最後の「さくら」はアンコール的(?)にヒット曲を・・・だけど、
ポピュラーの合唱編曲、声楽的な歌唱との境目、
そして日本語表現の難しさ、などいろいろ考えさせる悩ましい演奏。
 コンクールではない、コンサートという場でこういう曲を演奏する、
という姿勢は個人的に大好きだけど、
今回の「琵琶湖」「さくら」の完成度から考えると、
選曲の難しさも感じてしまいました。
(もちろん私とは逆に、喜ぶ人はいらっしゃるんでしょうが・・・ね)





 『アンサンブルアカデミー京都』(京都府京都市)
 男声14名・女声19名(プログラム上36名)

 かなり前、この宝塚コンクールのラジオ放送を聴いた時、
とても印象に残ったのは桑山博先生が指揮する
旧「京都アカデミー合唱団」という団体だった。
 練られた発声。端正な、澄み切った音楽。
 この団体には、その「京都アカデミー」に所属していた方が多いそうだ。
 指揮者の桑山先生は約6年ぶりに合唱活動を再開されたそうで、
司会者とお話しをする生・桑山先生を拝見することが出来て、感激(笑)。
 背が高く恰幅の良い、落ち着いた印象の紳士でした。

 この団体、女声の衣装はデザインは同じだが緑、紺、紫、と色が様々で面白い。
 しかし不思議なことにネックレスはなぜか統一。
 20代から70代までの幅広い年代の方々が所属しているそうだが
男声・女声とも、やや年齢高めの方が多いような。


 Mignonne, allons voir si la rose (恋人よバラを見に行こう)
 (G.Costeley:作曲)
  Si Dieu vouloit que je feusse arrodele (燕になれたら)
 (C.janequin:作曲)
 「GLORIA PATRI」より
    Surrexit Christus(今日、キリストはよみがえられた)
    Omnis una (全地よ、ともに喜びの声をあげよう)
    Benedicamus (我らは父をほめ讃える)
    Deo Gratias (神に感謝)
    Gloria tibi,Domine (主よ、汝に栄光あれ)
    (U.Sisask:作曲)


 年齢は高めの方が多いようだが、
出てくる音はノン・ヴィブラートの澄んだ、統一感ある素晴らしい発声!
 ラジオで聴いたときの感動が甦りました。

 ただ音楽は・・・フランス音楽の軽快さ、みたいなものはなく、
遅めのテンポで、真面目に、一歩ずつ足を踏みしめて進んでいく…
そんな印象の演奏。
 シサスクの演奏も、とてもよく練習しているし、
しっかりとした音楽全体の構築感は感じられるのだが、
短い旋律を繰り返し、様々に発展させていくこの曲。
 個人的に思うことは、真面目に一方向から音楽へ向かうだけではなく
指揮者・歌い手の多彩なイメージからのアプローチが無いと
残念ながら退屈な演奏になってしまうのでは、などと。

 それでも、音楽へ向かう姿勢と共に、
演奏全体に満ちる緊張感は大したものだった。



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