演奏会感想の部屋

 


 第3ステージは「From Oceania」(〜オセアニアの合唱曲より)。
 オーストラリア、ニュージーランド、サモアの曲を5曲。
 団員は花(レイ)を頭や体に思い思いに飾りながら。
 伊東さんの司会を交え。

 1曲目「Tunggare」、2曲目「Ngana」
シドニー生まれの作曲家:Stephen Leekの作品。
 名前に見覚えあるなあ、と思ったら
昨年の宝塚で台湾の合唱団が歌っていた作曲家でした。
 
 どちらも優しい曲想とよどこんの素直で伸びやかな声が
とても合っている。

 そしてどちらかというと“分かりやすい”曲のためか、
前2ステージと違い暗譜のためか、
曲の狙いを充分に理解したような歌が心地良い。
(このステージからテナーが格段に上手くなる!)

 特に2曲目は手拍子、ズレるリズムの変化、など。
 「オスティナートを多用したミニマル風技法と
  単純なカノンによって、オーストラリア北東部近海の姿を
  表現したものです。 (プログラムから)」

 オーストラリア原住民の4つの言葉をテキストにしたこの曲は
大変聴いていて楽しかった!

 ニュージーランドの作曲家:David Hamiltonの
 「Song for a Young Country」を挟み

 同じくHamiltonがマオリの子守歌を編曲した
 「Hine a Hine」
 ソプラノのSoli.が旋律を歌い、照明が暗くなり…。
 子守歌のフレーズと柔らかさ、優しさ、あたたかさが
よどこんのサウンドの純粋さと見事に繋がって
とても良い演奏。

 最後の「Faleula E!」はサモア非・独立時代の運動歌。
 Christopher John Marshallの編曲で。

 転調や、音楽が変化するときにその音、声で?
 「Hine a Hine」を最後にした方が??
 …などとも思いましたが。

 同じフレーズの繰り返し、
それに男声の小気味良いリズムが巧みに絡んだ楽しい曲でした。

 ヘタに「演出ステージ」みたいなのをやるより、
こういう「世界の音楽」で耳を新しくさせられる方が
私には好感が持てますね。
 来年は「アフリカをやるしかない?!」 期待がふくらみます。



 最終4ステージは
無伴奏混声合唱のための
 「シャガールと木の葉」
 谷川俊太郎氏の詩で、
1983年生まれ
大阪音大在学中の若手作曲家:北川昇氏への委嘱初演。
 (千原英喜先生に師事されているそうで、
  会場に師匠:千原先生のお姿を発見)

 「歩く」「あお」「願い」「シャガールと木の葉」の全4曲。
 若々しい感性が煌くみずみずしい曲集。
 他者とは違う、という“だけ”では個性に成り得ない?
…などと小難しいことを考えながらも
アンコールとしても歌われた最初の「歩く」
爽やかで、途中のリズミカルな変化など、
私には一番好ましかった曲。

 3曲目の「願い」ではマイナス面の感情表現、悲しみ、激しさが
よどこんの表現では常に明るく聞こえてしまい
組曲全体のコントラストとして
平坦に聞こえてしまうのが難でしたが。

 ステージ上に団員が広がった「シャガールと木の葉」
伊東さんがシャガールをお好き、ということもあり(?)
まるで愛唱曲のような雰囲気で、
この上無くなめらかにフレーズを「歌い合う」空気に魅了されました。

 そして、委嘱初演ということで、
「世にこの曲を送り出す!」と
強い意志を持つようなよどこんの演奏は、
とてもよく歌い込まれ、
「自分たちの歌」として隅々まで想いに満ちあふれた好演。
 初演でここまで歌われたら、
作曲者はさぞかし嬉しいだろうなあ、などと思わせる演奏。

 このステージに関しては「贅肉な音」などひとかけらも存在せず。
 時には楽曲を良い意味で “超えてしまう”ほど、
歌い手個々人の「贅沢な音」が鳴り響き、満ちていました。


 1ステージより、2ステージ目、
2ステージ目より3ステージ目、そしてそれより・・・と
尻上がりに良くなっていく演奏会。

 ただ、曲の難易度もあるのだろうけど、
1ステージのような曲でも
その曲の狙う所、表現を団員個人が積極的に
歌に生かそうという姿勢が常にあったら、
良かった後半の演奏でも
また一段と深みがあったろうな、と少々残念に思うところも。

 あとやはり、「静かな雨の夜に」「シャガールと木の葉」でも
激しい、マイナス面的な感情表現は、
よどこんのクリアで純粋な音では物足りなく思えてしまい。
 声を歪ませ、暗くさせる方向ではなく、
言葉の立て方やリズムの鋭さなどで何とか出来ないものか、と。

 まあそれでも、演奏終了後に、
こんなに爽やかに清々しい気持ちになれる演奏会は
なかなか無いものだし、
その日に観た映画「時をかける少女」のように、
ベタベタな表現へ向かわず抑え、
その結果、爽やかさを前面に出すのも、
団員の、指揮者:伊東さんの「美意識」なのかな?
 …などと思った演奏会でした。


 選曲も自分たちの個性をよく理解して、
良い面を出そうとして考えられたものだと思いますし、
演奏に多少難があっても、各ステージの個性が際立つ、
聴いていて飽きない演奏会でした。
 また機会があれば聴いてみたいものです。


 淀川混声合唱団のみなさん、
そして林さん、ありがとうございました!




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