演奏会感想の部屋

 

 
 なにわコラリアーズ第12回演奏会感想





       それらはすべてここに ある と




                   (立原道造 「夢みたものは……」 より)




 なにわコラリアーズ第12回演奏会は
私が今まで3回聴いていた「いずみホール」ではなく、
西宮にある「兵庫県立芸術文化センター大ホール」にて
2006年5月6日(土)18時に行われた。
 17時半の開場時間に少し遅れて入ったら
1、2階席は既にほぼ満席で3階席へ。
 この階もすぐ埋まり、最終的には2001人収容のホールに
約1700人が入ったそう。

 会場は木の質感が上品で
落ち着いた雰囲気とさりげない豪華さが共存している。
 音響面でも、3階席から聴いてもステージとの距離を感じさせず。
 レセプショニストの応対も大変素晴らしい。
 使用料の面など色々難しい部分はあるだろうが、
今後は是非この会場でやって欲しい!

 70人を少し越える人数のなにわコラリアーズ。

 第1ステージはVeljo Tormis作曲による2曲。
 「Maarjamaa Ballaad」(マリアの国のバラード)
昨年の全国大会でも演奏された、
十字軍北欧遠征とソ連によるエストニア侵略という
遠い過去と最近の事実に対する抵抗詩をテキストにした
激しい曲調の作品。

 今回の演奏でなにわコラリアーズが優れていると感じたのは
今までは「知的にコントロール」し過ぎに感じていた
フォルテやクレッシェンドなどの昂ぶる表現が、
聴く側の生理に合って来ているように感じたこと。
 その為、以前は若干作り物めいていた
激しい表現やクライマックスが心に添う。

 そして不協和音、協和音、
それぞれの和音の、表現としての目標に対し
歌い手の理解が深まっているのではないか、ということ。
 単純に“音が合っている”ではなく、
テナーの激しく怒りのこもった音に対し、
他パートの安らかな和音…というように
コントラストが鮮やか、そして音に込めた表情が細やか。

 コンクールで既に歌っているためか、さすがの完成度。

 続く2曲目は
 「Helletused」(幼き日の想い出)

 ソプラノの高嶋優羽さんを取り囲むように広がり。
 その高嶋さんの歌唱は
序盤こそ調子が出なかったようだが、
中ほどから伸びやかに。

 「Helletused」という言葉は、
トルミスの故郷エストニアにて
牧童が羊の番をする際、
牧草地の中でお互いに連絡を取り合う
歌詞の無い旋律の意味だそう。

 それらの旋律をモチーフにしたこの曲は
合唱がソプラノの伴奏になり、
あるいはその歌をリフレインし、
・・・幻想的な、古き良き想い出を懐かしむような、
叙情的な旋律が胸に染みる佳品。

 特にフォルテの持続の後、一瞬の休止、
そして後の重唱、それをつなぐ大合唱の美しさは
特に記憶に残っています。

 曲中唯一の歌詞は
 「夢見るように想い出す、あの幼い日の頃・・・」という詩句。
 
 「曲はトルミス自身の妹の思い出に捧げられている。」
というプログラム最後の一文が、
演奏の余韻に重なりました。
 久しぶりに合唱作品でもう一度聴きたくなった曲と演奏。



 第2ステージは
 「松下耕〜日本の民謡コレクション」と題された
 「北海盆歌(北海道民謡)」
 「稗搗節(宮崎県民謡)」
 「津軽じょんがら節(青森県民謡)」
の松下耕先生編曲の3曲。
 傘屋さんという団員さんの司会で
遠隔地団員の紹介(関東から来ている団員の多さ!)や
最近の活動などを。

 このステージは残念ながら私は評価が低い。
 昨年の間宮芳生作曲、
「合唱のためのコンポジション3」の演奏でも思ったのだが
こういった民謡的な作品の持ち味、土臭さといったものを
なにコラは無視しているような気がするのだ。

 いや、おそらく大学グリー的に粗野に演奏すれば
私の言う「持ち味」に近くなるのだろう。
 そういった演奏を否定する立ち位置のなにコラが
今回のような演奏をするのは理解できる。
 しかし具体的には、リズムの掛け合い、積極性の足りなさ。
 (特にベース系がノれていない印象。
  これは第3ステージの
  「Dravidian Dirthyramb(インド民謡?)」という曲でも
  感じてしまった)
 第1ステージでは解消されたと思った抑制し過ぎなテンション。
  「稗搗節」では音程は正確だが、
和音の移り変わりに表現の細やかさが付いていかない。
 「この曲、そんなに『気持ち良くなさそうに』歌う曲?」と
首を捻りたくなる3曲目など。

 全体的に、今回は私が3階席で聴いたのもあるだろうが
ベース系がおとなしく、
おおむねテナー主体の軽めの響きになっていたような。

 あと些細なことなんですが元・道民として。
 「北海盆歌」出だしの「ハァ〜〜〜♪」には
アクセントって付かないんでしょうか?
(北海道から参加されているおふたり、いかがでしょう?)

 3曲通して、
海外の合唱団が日本の民謡をコブシ効かさず歌っているような。
 あるいは日本の合唱団だが、
ハーモニー付けただけのポップス合唱編曲を
“そのままガッショウ歌い”で歌っちゃう平凡な合唱団、
のような感想になってしまう。

 ・・・キツすぎますかね?
 もちろん2曲目のヴォカリーズの丁寧な美しさや
低声部旋律の歌い回しの良さなど、
この曲の、過去の演奏にはなかったであろう和音やリズムの
細やかな再現は感じられるのだけど、それらが
 「なにコラでこの曲を聴いて、良かった!」
 …という所まで至っていないのだ、残念ながら。

 おそらく伊東さん、なにコラの
この種の作品で目指す演奏の道の途中、なのでしょうきっと。



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