演奏会感想の部屋

 

 

 男声13人で、
男声合唱とピアノのための「ことばあそびうた2」から
「たそがれ」「さる」の2曲。
 岩本達明先生の指揮で。

 「さる」ではリズムのズレの面白さや
「Sa」の発語の変化も欲しいところだったが
「たそがれ」での叙情など、
構成、表情、音楽の鮮烈な変化が印象的な、
13人の演奏とは思えないものでした。


 続いて、女声合唱、三絃、コントラバスのために
 「をとこ・をんな」

 阿部定事件を扱った
大島渚監督の映画「愛のコリーダ」にインスパイアを受けた
吉原幸子氏が詩を書いたもの。

 岩本達明先生の指揮で。
 三絃の野澤徹也氏、コントラバスのKEIZO氏(溝入敬三氏)が両脇に。
 

 はじまりから異様な緊張感が会場を支配する。
 コントラバスの響きに乗せ、
声がうねり、体にまとわりつき、そして耳元で呼びかけられる。

 「きっつあん!」

 その名前に今まで聴いたこの曲の演奏とは違う
“優しさ”が含まれているのに少し驚く。

 「まとわりつく」と書いたが、
線的に、リズム的に、まとわりつきとズレによる
新実先生がよく使う作曲技法が
この「をとこ・をんな」から現れてくる。
 通常の和声を目的としない、
持続するひとつの音からポルタメント、グリッサンド、と
微妙な音程でつかず離れず、うねりまくる音世界。

 そのうねりの技法がこうも感情表現に結びつくとは。

 コントラバスの低音が腹を下から揺さぶり、
三絃が心を騒がせる。
 低音で断続的に鳴らすだけかと思ったコントラバスは
すすり泣くような高い音で、女声と見事に重なり、そして離れていく。
 
 三絃、コントラバスだけが目立ってしまいがちなこの曲だが
女声合唱は、それが一人の奏者が鳴らす楽器のように、
他の楽器と三位一体のバランスを作り上げる確かな存在感。

 「…きっつあん」 と、ふたたび優しく呼びかけられ


 「こころとからだは

     おなじものだねえ」



 ・・・と囁かれたときの背筋に疾った冷たさは忘れがたい。


 演奏が終わる頃、
ラフな洋装の、ふたりの奏者が着流しを。
 そしてステージ衣装の女声が、
簪をさした着物姿の婀娜な姐さんに見えた。

 求める愛とその果ての果ての死。
 一面的な“怖さ”だけが
前面に出ていたような今まで聴いた演奏と違い、
女性の、相手への優しさと愛情が全体に感じられ、
それゆえ、人の感情の奥深さが声に染み込んだような演奏。

 構成の妙に感心すると共に、改めて
「名曲だ」、との思いを強くした。




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