演奏会感想の部屋

 

 
  
  最後の団体は《EST》シンガーズ
  (総合1位 女声・金賞 男声・銅賞 混声・金賞 三重)



 こちらも全部門での出場。
 演奏の前に、前団体のオランダユースと選曲が同じ、
ということでDurufléの「Tota pulchra es Maria」を合同で。
 (個人的にはオランダユースとEST女声の違いを
  知りたかった気もしましたが)

 女声は17人(だったっけ?)

 Orbánの「Lauda Sion」は隙の無い演奏。
 ドイツ・台湾の合唱団を
こうしてひとつのステージで聴いた後にESTを聴くと、
ESTはその光を当てる強さが2つの海外団体と同じく“強い”。
 ただその声自体は、日本の合唱団だと充分納得できるのですが…。

 男声合唱全18人は女声3人を加える形で
Tallis「エレミア哀歌」を。

 混声は女声17人・男声15人
 Brahmsの「Letztes Gluck」の後、
 信長貴富氏編曲の「島唄」
 うめー。合唱団としてのサウンドがバッチリ。
 信長氏の編曲が合唱のツボを分かっている、というのもあるのですが
旋律やMix Voiceなどが完成度高い演奏です。
 しかし、この編曲、歌う側も楽しいだろうなあー。
 そんな事も感じさせる演奏。

 “Chichester Mass”より「Benedictus」(William Albright)も
リズムや速いパッセージなど各表現の完成度高し。

 全盲の少女が作詩の
 「空とぶうさぎ」(矢田久子)は演奏前に
詩を同時通訳するメンバーの困惑に笑いを誘われました(笑)。
 ・・・こういうホモフォニックの部分が多い日本語の曲って
淀工グリーの演奏を連想してしまうのですが・・・
やっぱ影響されちゃうんですかね? 

 「El Guayaboso」(Guide López Gavilán)は
リズミックな楽しい現代曲。
 ウッド・ブロックのようなヴォイスパーカッションも上手く、
そのリズムや交差するフレーズに生命感があり、
体の使い方がアタマだけではない印象。

 最後の曲は信長貴富氏編曲、
中田喜直氏の「別れの歌」

 やはり合唱のツボを突く編曲。
「さよなら」という言葉を繰り返し、
最後はステージに広がり、
中央から現れた素晴らしいソプラノソロが盛り上げます。
  この演奏会を締めくくるにふさわしい選曲と感動的な演奏!


 ESTは他団体と比べると
表現や実力が各分野で不足無いなあ、という印象。
声の純度や発声のポテンシャルなどは
総合2位や3位の海外団体とは少し落ちたりしますが、
この2団体は得意な分野は非常に得意だけど、
それ以外の分野はイマイチ…という印象を抱かせるのですよね。
 そういう意味で、総合力でESTの1位は納得しました。

 そして前述のように、
「音楽に強い光を当てて陰影を無くす」というのは
ESTにも、とても感じました。
 ただし、声そのものは「日本人」なのですが。
 そういう意味で、演奏から受ける雰囲気は
ドイツや台湾の団体と非常に似ているような気がします。
 ある意味、「日本人離れ」した団体、と言えるかも、EST。

 「当てる光の強さ」と「当てられる声」の違いというのは
それぞれの演奏に考えてみると面白いかもしれません。


 さて、世界合唱シンポジウムの感想を各HPで読んでいて
同感してしまうのは(こちらとかこちらなど)
 「…日本の合唱ってエンターテイメント性が足りないのかなあ」
ということ。
 台湾、オランダの合唱団とも、
観客を楽しませようとする選曲、パフォーマンスがとても上手です。
 その意味で、台湾の合唱団はVOX GAUDIOSA、
オランダユースはBrilliant Harmonyという
どちらも耕友会の合唱団を強く連想することになりました。
 両団体ともその志向が海外を向いているのでしょうね。
 パフォーマンスにしても、例えば高校・中学の女声合唱団なら、
音楽と連動しない無意味な「振り付け」がほとんどだと思うのですが、
オランダユース、Brilliant Harmonyはそういう所は全く無いですもんね。

  別にマジメに歌うだけ、というのが悪いと言うわけではなく、
私もヘタな演出なら凍え死んでしまうので無いほうがマシ、とも思いますが。
 しかし。優れた、センスある演出なら、
こうも会場を沸かし、その団体の時間をこうも印象深いものにするのか、と
感じ入ってしまったのです。

 まるじゅんさんの言葉を借りれば
 その音楽、演奏が「観客と向き合っているか」
 
 MATTさんの言葉を借りれば
 「今自分たちが披露しようとしている合唱曲の魅力を
  どのように伝えるのか」

 
 ・・・ということだと思うのです。


 宝塚国際室内コンクール、次回は2年後だそうですが
 (「ハッキリ言って『財政難』!」…ですと)
来年も“国際”ではなく“国内”に限ってコンクールを開催できないか、
運営側の皆さんは考えているようです。

 私もチケットを買って、こうして感想を書くぐらいしか出来ませんが、
この素晴らしいコンクール、演奏会がいつまでも続く事を願っております。

 どなたかお金持ちの方、協力してやって〜〜〜!!!





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