演奏会感想の部屋

 

    「なにわコラリアーズ演奏会感想」 その2


  6人のアンサンブルで
  「Serenade (Selim Palmgren)」を歌った後

  第3ステージ
  アラカルト〜これなら歌える!?


  ・・・と題したこのステージは各国の曲を取り上げた楽しいもの。
  まず10人がこの日にふさわしく
  「鯉のぼり」を1コーラス歌うと、2コーラスから歌に合わせて
 他のなにコラメンバーが入場!
  そして最後は全員で「鯉のぼり」の大合唱!!

  司会の方が
  「早稲田大学出身の高橋守でございます!」…と自己紹介。
  東京モンが関西の合唱団でがんばってる!と伝えたいのだろうか(笑)。
  1曲1曲をユーモラスにノリ良く紹介する、名司会っぷりでした。

  全体を8つに分けたような小アンサンブルの並びで
 コンクールの自由曲でもあった
 「Prinsessa av solsken (太陽の下の王女)」
  スウェーデン語。
  Selim Palmgren作曲のこの曲の演奏、
 他の演奏曲でも感じたのだが、コンクールの時よりも
 雰囲気がとても違う。
  ひとことで言えば「コンクールの緊張感から解き放たれた」
 …となるのかもしれないが、それだけではなく、
 各個人がコンクールでは出来なかった表現を、
 演奏会という場でそれぞれ自由に考え、自発的にやっている印象。

  そんな空気とあわせて、
 ゆったりとした、愛唱曲のような世界にたちまち引き込まれる。


  いつもの並びに戻って
  「Terve Kuu (月よ、ようこそ)」
 6曲あるJean Sibeliusの作品を
 なにコラは全て演奏する予定、だが今年でようやく3曲目だそう。

  フィンランド語の曲で・・・あ〜良い曲だ!
  柔らかく温かい感情があふれる中、
 突然ピアニッシモの切迫する表情が効果を上げ・・・うっとり。


  「Fengyang Song (鳳陽歌)」
  Chen Yi編曲。中国語。

  今回の演奏会では「11言語」(!)を演奏する、ということ。
  プログラムの「これなら歌える?!」 という文字が
 「どこが歌えるんや?!」と怒るプログラム作成者の意向により、
  ・・・ホラー小説のような字体になってる(笑)。

  銅鑼や太鼓、鐘を思わせる合唱に
 トップテナーから4人、前に出て、
 カウンターテナーとなり中国民謡を歌いだす!
  そのカウンターの声が面白く、会場から笑いが上がっていたけど。
  いやいや、この響きはちょっとしたものですぜ。

  明るく軽やかな曲調と、カウンターテナーの名演に拍手喝采!


  「El carbon (石炭)」
  Rito Mantilla編曲、コロンビア民謡。

  石炭売り役:バリトンソロの石原祐介さんが見事!
  (京都産業大 → 京都市立芸大、だもんなあ〜)
  南米らしい、熱く、ノリの良い曲調にカラダも騒ぐ!

  最後の「石炭買ってくれよっ!」…というイキオイのある
 かけ声“だけ”のソリストたちの演技も楽しい!
 (ここで、歌とかけ声をしたソリストたちを紹介すると
  メンバー全員足を踏み鳴らす賞賛ぶり。や〜“男声”らしいわ〜)


  「Le Bain (水浴)」
  Einojuhani Rautavaara作曲
  フランス語。(「人生の書」より)

  ここで指揮者が伊東さんからセカンドテノールの前川裕さんに。
  指揮者を外れた伊東さんはセカンドで歌い手となり
  「足を引っ張らないように!」と司会者に釘を刺され(笑)。

  ラウタヴァーラの他の曲にもあったように
 馬に乗った時のような(?)リズムのベース旋律に乗せて
 ねばりある激しいフレーズが繰り広げられる。


  「Ach vojna,vojna (ああ、戦争よ!)」
  Leos Janacek編曲、モラヴィア民謡。チェコ語。

  ふたたび伊東さんに指揮が代わり。
  ヤナーチェク作曲の
 戦争に参加させられる男の悲しみを歌ったこの曲。
  「ああ、戦争よ!戦争よ!」と始めからエネルギーを注ぎ込み
 弱音に向かっていく流れの素晴らしさ。
  渦巻く感情の場面転換の見事さ!

  や〜この曲のこの演奏、ホントに聴き惚れました。


  「Santa Maria (聖マリア)」
  Alo Ritsing作曲。エストニア語。

  最初はマジメな宗教曲、と思ったら
 途中からルンバのリズムに変わる、という面白い曲。
  ・・・正直、そのルンバはどーかなー・・・という気がしないでも(笑)。

  ここで司会者から伊東さんへのインタビュー。

  伊東さん:
  「昨年もこういうオムニバス・ステージをやったが
   『難しすぎて歌えない』…との声が団員から上がり
   今年はその反省を踏まえて
  “これなら歌える”、というステージ名にしたのだけど・・・。

   やはり難しい曲が並ぶステージとなってしまったので来年は

  “今度こそ歌える!”という名前にしなければいけないのか、と(笑)」


  「Linden Lea (しなの木の野辺)」
  R.Vaughan.Williams作曲。英語。

  昨年のなにコラ課題曲演奏でも思ったけど
 ヴォーン・ウィリアムズの抒情は胸に「くーっ!」と来ますな!!
  それは抒情に溺れすぎず、かつ引きすぎない
 なにコラの姿勢が優れているせいでもあるけど・・・。

  この曲、トップテナーのソロがあったんだけど
 同志社グリー出身の宴会指揮者:小林香太くん!
  すっばらしいですねえー。
  フツウに関東でサラリーマンさせるのはもったいない声(笑)。

  またねえ、最後のrit.で、なにコラの人たちが
 この抒情ゆたかな曲にふさわしい、イイ顔してるんだよ!
 


  いよいよ最後の曲、ということで
  「Die Nacht (夜)」
  Franz Schubert作曲。ドイツ語。

  並びが最初の曲のように、パートごとではない
 小アンサンブルをいくつも作るような並びに。

  この、良く知られている名曲。
  クレッシェンドで音量よりも“響き”が広がる合唱、って
 いったいなんなんだろう・・・と考えてしまった演奏。
  風のように旋律が吹き渡り、
 聴いているうちに心が静かになっていく・・・そんな演奏。


  伊東さんがいったん引っ込み、
 もちろん会場内はアンコールを求める大拍手!

  「Beati Mortui」
  Ferix Mendelssohn Bartholdy作曲。

  ・・・ちなみにアンコールは曲名を言わず、
 演奏終了後ホールに曲名を掲示するスマートな形。
 (来年は作曲者名もいっしょに書いてくださると、なお結構!)

  演奏は・・・。
  いや・・・オレ、メンデルスゾーン、大スキなんだけどさ。
  この演奏でますます好きになってしまった・・・。

  9人のソリから合唱に広がる世界の美しさ。
  それぞれのパートからフレーズを受け渡すやさしさ。

  聴いていると。
  ホールの空気が突然きれいになり、
 無数のかがやくものが、あたりを舞っているような・・・。


  続いて伊東さんが「星に願いを、という気持ちで…」と

  「北極星の子守歌」
  新実徳英作曲。

  抑えられた、静かな表現の中に、
 闇夜に星が瞬くがごとく、微妙な表現が光る。
  「子守歌」、というのはこう歌うんじゃないかな?と
 優しく歌で教えられたような演奏。


  それでも、それでもやはり観客は満足しない(笑)。
  次の曲を求める怒濤の拍手に応えて黒人霊歌の定番

  「Ride the Chariot」

  演奏後、メンバーのおやびんさんが
  「あんな “グリグリ”(グリーっぽく)した演奏、
  恥ずかしいんやけどな・・・」と、ホント恥ずかしそうに言ってたケド。

  やー、こういう「大学グリー」っぽいハジけた演奏も、
 アンコール1曲ぐらいならいいんじゃない?!

  ソリストがまた芸達者なんだ!
  なんだかヤラしく(笑)歌い始めるベースソリストをはじめ
 テナーソリストも見事!
  (ソリストの演奏が終わった後、さりげない拍手で
   観客の拍手を誘う伊東さんカッコイイ!)

  ラストの大絶叫も全くなにコラにふさわしくないけど(笑)


  
燃えた〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!



  いやーほんっとうに素晴らしい演奏会でした。
  隣で聴いていたCAおねえさまたちも
 「こんなにいい“合唱のコンサート”は、じぶん史上最高!」と大感激していたし。
 
  コンクールで良い成績を取っている合唱団って
 演奏会でいろんな曲をやっても
 同工異曲になりがちなところがあるらしいけど。

  ・・・しかし、“なにコラ”は違いましたねえ。
  1ステの北欧の曲ではコンクールの場のような
 高い技術をこれでもか!…と示し。

  2ステは日本語の情感を見事に出し。

  3ステは各国、それぞれの曲の魅力を
 演奏はもちろん、万人に届くかたちで
 じゅうぶん楽しめるようにしていたし。

  日本語の曲、古くからの名曲を大事にするのはもちろん、
 新しい男声合唱のレパートリーを!…と強く望み、
 多くの合唱人に広めようとするプログラミングは
 本当に評価したいものです。


  ちょっと気になったところ。
  各国の言語の発音やアインザッツ、
 和声の色彩感の追求は “なにコラ” なら
 もっともっとやれるだろう?!・・・とも思ったし。

  プログラムも3ステの楽曲紹介で音楽的な解説があると、
 演奏を聴いて感動し
 「俺たちも同じ曲をやろう!」と思った、
 会場にいた多くの学生さんの貴重な資料になるだろうな〜
 ・・・とも思ったし。
 (もちろん文章ではいっさい説明せず、司会者の紹介だけで
  「次はどんな曲?!」とワクワクさせる“ねらい”も認めるけど)

  3ステなんかは
 9曲も演奏するなら2曲ぐらい減らして、
 演奏の密度を高めたほうがいいのでは?
 ・・・という気もしたけど。
 (まあ、ステージが長い、という印象はまったくなかったし、
  「じゃあ、どの曲減らす?」と訊かれたら私もきっと迷う 笑)
 

  あと表現全体として。
  今までの“一般的な”男声合唱団・グリークラブなら単純に
  「キレイ!」…と言うだけの表現をなにわコラリアーズは
  “いったん呑み込んでから”

  「花が降りかかるような美しさ…!」
  とか、ワザワザ言っちゃうような表現ってどうなのさ?

  「キレイ!」という単純な表現のイキオイ、パワーみたいなのも
 無視できないんじゃないかい〜?
 
  ・・・なあんて言うヒトもいるかもしれないけど。



  あーうるせーうるせーうるせーうるせーうるせー!


  この演奏会をすべて聴き終わって、
 観客の多くが立ち上がり帰る用意をしているのに
 椅子に座ったまま私は

  「・・・ああ、合唱を続けていて、本当に良かった!」と思っていた。

  私が男声合唱出身者、ということは何度も書いていたが。
  既存の男声合唱では満足できない気持ち、
 しかしその理想の姿をハッキリと示すことが出来ないもどかしさ。
  そんな感情をいままでずっと抱えていたのだけど。

  ・・・求め続けていた解答は、
 天から降ってくるように、突然、
 こうして現実のかたちで現れるのだなあ…!と。

  CDでもコンクールでもない、
 単独の演奏会というこの場で、ようやく、確信したのだった。

  「なにわコラリアーズが、その答えだ!」


  いままで女性の「男声合唱っていいね!」という言葉を聞くと
  「オトコには生理痛が無くていいわね!」
 …というニュアンスが含まれているような気がして
 素直に喜べなかったのだが。

  この「なにコラ」演奏会、あちこちで聞く女性の
  「男声合唱っていいなあ〜!」との賞賛の声は
 本当に、本当に素直に聞けた。

  男性本来の性質に甘え、無雑作にそのまま出すことなく、
 表現を磨き、育て上げ、そしてその結果として。
  「男声ならではの表現を追求している」演奏。

  ・・・本当に、男“声”であることが、これほど誇らしい時はなかった。


  どこの男声合唱団よりも激しく強く「キレイ!」
 …と歌える合唱団が
 別の新しい歌を、新しい歌い方で歌おうとする。

  この姿勢がすばらしいじゃないか。
  その姿勢を認めてやりたいじゃないか。


  なにコラの新しい歌は、聴いてしばらくたって
 胸から感動があふれ出す。
  一見静かな、抑えた表現の中に、激しく渦巻く熱さと力がある歌だ!


  男声合唱を始めてから、
 やっと得た“解答:なにコラ”を私は、
 どこまでもみつめていたいし、聴いていたいと、心から思った。






  …あー、えぇと、いや、みなさん2004年5月なにコラのコンサートはホントに









       
来なくていいです! 




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