演奏会感想の部屋

 

   
 なにコラ第13回演奏会   感想その3



 少し今回の感想は厳しいものになったかもしれない。
 言い訳になるが、連続して5回目にもなる演奏会となると、
どうしても過去の「一番良かった演奏」と比べてしまい、
現在の演奏が少しでも劣っていると、つい気になってしまう。
 そしてなにコラの高い技術など優れているものを当然のものとしてしまう。

 ただ今回、コンクールでのなにコラ演奏は聴いたが
演奏会は初めて。
 なにコラの演奏を聴くことそのものが初めて、という方、
何人にも会って話を聞いたのだが、
やはり一様にその歌唱力・技術の高さに驚き、
さらに観客を楽しませるエンターテイメント性に驚いたようだった。

 「日本一の男声合唱団」という呼び名は伊達では無い。



 ここでプログラムから、
 「13年目の新緑〜なにわコラリアーズin京都」という題の
指揮者:伊東恵司さんの文章を転載しよう。



 胸に残る光景が2つあります。

 3年前の夏、「なにわコラリアーズ」で
カナダのバンクーバー国際音楽祭に招待をされ、
地元の合唱団とジョイントコンサートをした時のことです。
平日夜に教会で行われるコンサート開始1時間前に
団員やスタッフが教会前でビラ配りをしていたのでした。
驚かされたのは、会社帰りの方々の中にこのジョイントコンサートのチラシを見て、
足を止め、会場に向かう方がおられたということです。
「今日はひとつ珍しい演奏会でも聞いて帰るか」という感じでしょうか?
ナチュラルな雰囲気の中に文化の熟成や
音楽会を取り巻く社会と合唱団の関係を痛切に感じさせたのでした。

 もう1つは2年前にこの場所で行われた
世界合唱シンポジウムでのステージの光景です。
世界からやってきたほとんどの合唱団が「上手さ」とは
全然別の次元の歌唱をしておりました。
リズムがあり、踊りがあり、手拍子があり、笑顔がある…、
あるいは民族の音楽や文化の延長線上にある
「客席を巻き込んでいく生きたパフォーマンス、楽しいステージング」
とでも言うのでしょうか?

 「なにわコラリアーズ」は、「爽やかにかっこよく」だけをキャッチフレーズに、
ノスタルジーに終始しない活動、コンクールでの勝ち負けに拘泥しない活動、
一般の人がびっくりしてくれるような活動…を志してきました。
志と現実はあまりにもかけ離れていて、目の前にあるのは
「音程が取れない」「声が纏まらない」「練習に来る人は少ない」
「上手になったら東京に転勤していく」…無残な現実ばかりです。
しかしながら、私にはこの2つの光景の残像が残っております。
いつかあんな光景を目の前に作り出したいと思います。
いろんな次元をはみ出して全体から沸き起こる「心の底から楽しいと思える時間」
「痺れるような熱い瞬間」…それらに気持ちを向けた活動、
合唱ファンの裾野を広げていく活動、
合唱が社会と文化と生活の中に自然と溶け込むような活動、
…忙しすぎる日本社会に対して新しい「大人のロマンの広がり」を
作れないものかと考えています。
「合唱をすること」だけではなく、「合唱に出来ること」を考えたいと思うのです。

 「なにわコラリアーズ」が、その方向に向けて
足を踏み出せるように努力したいと思っています。
「さわやかさとかっこよさ」はその陰の努力に鍛えられているものだということを
常に心に留めながら…。


                                       いとう けいし




 「コンサートは、イヴェントでなくてはいけない」」
 …という言葉をある人から頂いた。
 イヴェントという事は、何かが起こらなくてはいけない。
 その場を逃したら共有できない、
事前には予測できないものがその空間に存在しているということ。

 本当に全くその通りで、単に良い演奏を聴くだけなら
交通費と長い時間をかけて
京都くんだりまで行かなくても良いわけだ。
 自宅で良いCDやDVDをかければ済む事。

 ただ、CDやDVDでは味わえない“何か”がある、と
信じているからこそ私はコンサートへ行くのだ。

 そして、まだまだ隔たりがある一般社会と合唱というもの。
 観客を必要としないコンクールと変わらないような多くのコンサート。

 「合唱をすること」だけではなく、
「合唱に出来ること」を考えたい、という
伊東さんとなにわコラリアーズの志は
儀式化、予定調和で観客不在の合唱演奏会だけではなく、
「合唱」という在り方そのものまで、
ワクワクさせるような「イヴェント」へ向かおうとしているように思う。


 アンコール終了後のロビー・コール。
 歌われた「Ride the chariot(黒人霊歌)」、
そして木下先生の「夢見たものは……」が
アンコールでも外れなかったリミッターをようやく、やっと
解放したかのような演奏がとても心地良かった。

 ガラスが壁一面にあるロビーで、
差し込む夕陽を背に、
幾重にも幾重にも重なった大勢の観客を前に、
誇らしげに歌うなにコラ団員たち。

 伊東さんの原動力に2つの光景があるように、
私の力になっているのも、こんな光景だ。

 夕陽に縁取られ、輝くなにコラ団員たち。
 その音楽にいつまでも浸っていたいと願う観客の幸せな表情。


 夢見たものは ひとつの幸福
 ねがつたものは ひとつの愛

 

 「夢見たものは……」のフレーズをいっしょに口ずさみながら、思った。




 「うん! さわやかに、かっこよくて。

 
そしてまぶしいぜ、なにコラ!!


 


 (おわり)





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