演奏会感想の部屋

 



 大谷先生のアンコールは同じ武満作品の「うた」から
 秋山邦晴氏の詩で『さようなら』
 恋の想いと、切なさが身体を締め付け。

 曲後半、曲調がやや明めなジャジーに変わるのだが、
その入りとイメージが、これ以上でもこれ以下でも違う、抜群のセンス。 

 さようなら
 あなたのなかに
 わたしは部屋を
 限りなく探しつづけている


 詩と同調し、歌い手が想う相手、
そしてその歌い手であるMIWOにも恋してしまうような演奏。

 …聴き終わったあと、しばらくたって息をつく。そんな名演。 


 岩本先生のアンコール曲は
ガーシュインの有名曲『 I Got Rhythm 』
 編曲は昨年の東京公演アンコール「OVER THE RAINBOW」と同じ、
Oxford出版社から出てる楽譜からだそう。

 雰囲気を一転させ、ぱあっ!と輝くステージ。
 ノリの良さ。弾むリズム。KENJI のソロ(笑)。
 聴きながらカラダを動かしたくなっちゃう演奏。
 明るく見事にこの演奏会を締めくくった!


 すっばらしくシアワセな演奏会。
 日本でMIWOより単に上手い・巧い合唱団はあるかもしれないが、
ここまで様々な曲を、ここまで曲に入り込み、
ここまで聴衆をその世界へ引き込んでしまう合唱団は
今現在私には思い当たらない。
 MIWOの生演奏を聴いた方で、MIWO以上、
いやMIWOと同じくらいの演奏ができる合唱団をもしも他に知っていたら、
どうか私までご一報をお願いします。
 北海道から沖縄まで聴きに行くつもりですよ!

 初めてMIWOを聴いた方からは
 「家に帰ってから熱が出てしまうほどの衝撃」
 …などと掲示板に書き込みがあったり。

 東京から聴きに来た隣席の知人の女性(新婚)は
ステージが、曲が終わるごとに

 「凄い!」 「すごっ」 「…ス・ゴ・イ」。

 などと、「凄い」の変化活用を何回もしていました。
 ・・・彼女の「すごい」つぶやきを再生した方が
私の駄文よりよっぽど感動が伝わるかも。


 創立から20数年経った合唱団にはふさわしくないかもしれませんが。
 しかしMIWOは正に
 「今が旬!」という印象です。
 (もっとも、MIWOはいつだって「今が旬!」だったのですが)

 それは今回の男声の充実のように、
磨き上げてきたものが結実してきている、ということもあるだろうし。
 これまでの歩みを記した別冊子での団員さんの言葉
 「いつもいろんなことに新鮮」
 「できたてほやほやでいたい」

 そして指揮者:大谷研二先生の言葉のように
(そんな風に新鮮に)「私とMIWOの関係もそうありたい」
…という志向が演奏に、存在に現れているのだとも思います。

 ちなみに演奏会の打ち上げで大谷先生へ
 「MIWOと新鮮な関係を続けることの秘訣とは?」
 …と質問したところ。

 「合唱団を“取り込まない”ことかなぁ」とのご回答が。

 (私個人は「合唱団を指揮者の手段にしない」とも解釈しました)

 ちなみに。大谷先生のこのお言葉の後すかさずMIWO女性から
 「わ、私たちは先生をすっごく“取り込みたい”と思ってるんですよっ!」

 ・ ・ ・ (笑)。





 最近、同じくらい合唱を聴き続けている知人とこんな話になった。

 「合唱を聴き続けることによって、
  演奏へ要求する水準も高くなり、
  合唱を始めた頃に聴けば感動したはずの演奏が、
  いま聴いても感動しなくなってしまう」

 聴けば聴くほど、知れば知るほど不幸になる。
 格付けした記憶の棚に、“いま”聴いた演奏を機械的に収めるだけ。
 それは自分の中で、合唱というものを年々低く見ることに繋がり。
 …この頃はそんな不安と、自分自身への苛立ちは顕著なものになっていた。

 「初心」「新鮮でいること」は、本当に本当に難しいことだ。
 錆びた耳と心は、どうすれば磨いたように新しくなれるだろう?

 しかし、MIWOの演奏を聴き、涙が滲むほど感動し、
多くのものを受け取っている自分に気づき、考えた。
 「いま演奏から受け取った多くのものは、
  合唱を始めた頃にもすべて受け取れただろうか?
  合唱を始めた頃でもここまで深く感動できただろうか?」


 ある日、「感動は自己更新」という言葉を知人の文章から得た。
 ブラウザの「更新」をクリックするように、
感動をするごとに私たちは新しくなれる。

 その「新しさ」というものは、
今までの自己を全否定して生まれる新しさではないはず。
 感動というシャワーを浴びることによって
過去の経験を洗い、浮き彫りにし、感覚を開き、
現在の自分を取り巻く状況へ有効につながっていく、
そんな経験を発見する「新しさ」なのだと思う。


 MIWOの演奏に、深く広く感動した自分がいた。
 その感動によって得た自分自身の「新しさ」を
少しでも生かせるようにしたいと願う自分が確かに今存在している。

 聴けば聴くほど、知れば知るほど、不幸になんかならない。決して。

 MIWOの演奏を聴き、しばらく経った今。
 私は本当にそう思う。







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