演奏会感想の部屋

 

      松下耕先生講習会レポート IN 札幌 


  私が残念ながら行けなかった2003年7月の松下先生講習会 IN 札幌。
  その前の週に、札幌在住時所属していた合唱団団員さんに
  「どんな内容だったか、メモって、記して、
   報告してくれ〜!いやご報告お願いいたします!!」
 と強く願ったところ、何人かの方がMLなどでレポートを送ってくれました。
  受けた方みんなに、とても大きなものを松下先生は残されたようです。

  そのうちのひとり、通称「ゴチさん」のレポートがかなり丁寧で良かったため
  「これを載せてもよい?」と伺ったところ
  「それでは書き直してから再送します・・・」とのご返事が。

  そのレポートが届きましたので、掲載させて頂きます。
  (註:この文章は2003年8月に掲示板に書いた文章を元にしています)

  レポートを読み終わって私が感じたこと。
  「うわ〜、やっぱり行けば良かった!」そして
  「・・・もっともっとオレも勉強しなきゃなあ・・・」ということ。

  いつか松下先生の講習会を受けられる際、
 このレポートを読まれた方がその講習会をさらに役立たせるような
 “予習用の参考書”…となることを願っています。

 


 < ゴチさんレポート >



 はじめまして。文吾さんの古巣の合唱団の団員のゴチと申します。
 講習会に出られなかった文吾さんの熱いリクエスト(?)に答えて、
 このレポートを書かせていただきました。
 しかし、このレポートは私の記憶とメモを頼りにして記述したので、
 松下先生のご発言を一言一句再現しているわけではありません。
 内容でいくつか脱落・誤解している部分もあるとは思います。
 ただ、だいたいの雰囲気は伝わるよう書いたつもりですので、
 その点をご了承の上、お読みいただけると幸いです。

 〜〜〜
 2003年 7月13日 日曜日。
 会場となった浅井学園のホールには200人程の参加者が集まりました。
 中高生の部が昨日終了していた事もあり、
 参加者は一般団体を中心にした人々です。
 札幌合唱連盟理事長の長内先生の挨拶の後、松下先生登場。

  まずは2005年に京都で開かれる合唱シンポジウムに
 関連した話からスタートしました。
 「ヨーロッパの有名な合唱指導者から何か教えてもらおうとしても、
 相手にしてくれないんだよね。逆に、自分達が何ができるか、
 日本人だからこそ何が聴かせられるか見せると興味を持ってもらえる。
 なので、今度のシンポジウムでは
 『日本人だからこんなことができるんだ』というのをみせるつもり」

 ◎本日の第一ポイント「日本人だからこそできる音楽を大事に」

 そして先生、突然メロディを歌いだすが途中でゲホゲホと咳き込んでしまう。
 「いや〜昨日早く寝たんだけどね〜」との言葉に、会場の一部で笑いが…
 先生、声が低いしテンション低めなのは…飲み会明けのせいですか(笑)??

 気を取り直して再度メロディを歌う先生。
 先生のフレーズを聞いて覚えて、会場の全員で歌うものの、
 フレーズが長めなので覚えられない人が多い。
 ここで先生、「本当に『聴く』ということは『覚える』ことだよ!」と。

 ◎本日の第二ポイント「耳を使って聴きあう」

 大体全員が最初のメロディを歌えるようになった頃、
 全員が歌っている裏で先生は同時に別のメロディを歌う。
 「歌いながら、別のパートを聴いて覚える」ことを要求されました。

 続いて、先生が飛行機の中で作詩作曲したと言う「北海道の歌」を 
 2グループ程にわけて、カノンで歌ったりハミングでまず自分の音を聴き、
 次にとなりの人の音を聴き、さらにとなりのとなりの人の音を聴き…と
 「聴く」練習が続きました。
 それくらい他のパートを聴かなければならないのです。

 「となりの人の顔を見る、というのは分かりやすいが、
  となりを聴くというのはよほど注意しないと難しい。
  だから周りをよく聴くよう、耳を鍛えないといけない」

  続いて和音を感じる練習。
 まず、全員で和音(ドミソド)を純正律で鳴らしてみるが、決まらない。
 (純正律の場合、ピアノの音(平均律)よりも
  「ドは同じ、ミは少し低く、ソは少し高く」がポイント。意外と忘れがち)

 続いて和音進行が異なる各種の「カデンツァ」を全員で歌ってみたり、
 先生の合図で和音の各音を半音ずつ上げたり下げたりする練習を通じて、
 和音の雰囲気を決めているのは下のパートの動きということ、
 和音から和音に移る時の感覚(「落ち着いた」「小洒落た」など)が
 大切という事を学びました。

 さらに、「クイズ!いくつの音を鳴らしてるでショー」と題して
 先生がピアノで弾く和音を聴いて、いくつの音からその和音が成立しているか
 当てるゲームを実施。
 …全問正解とは行かず、
 一番上の音以外の音を聴くことに慣れていないことを実感しました。
 「ソプラノの人だと、わ〜と歌いきって『どーだっ!!』…って感じで(笑)、
  他のパート聴かないこと多いんじゃない?
  下のパートだと、結局ソプラノしか聴いていないこともある」


 さらにテンポ感の練習。
 ホワイトボードに書かれたリズム符通りに皆で手拍子を打ってみる。
 次に、先生の合図で手拍子をやめて自分の中で
 その続きのリズムを頭の中で刻み、
 再度の合図で続きのリズムを手拍子で打つ練習。
 「合唱団と指揮者の両方にリズム感があって、
  初めて曲をつくる事ができる。
  何でもかんでも指揮者に頼ったりしてない?
  だから指揮者は大変なんだよぅ〜(笑)」

 つづけて、このリズム符の下に書かれている階名通りに
 メロディをつけて歌ってみる。
 この曲は実は民謡なのだけれど、どこの国の、どんな人が
 いつ歌ったものかを曲調から全員で推理。
 (民謡のリズムはその土地風土が出るらしい)
 「曲を聴いて、予備知識無しにその音の動きや和音から感じられるものを
  大事にしよう」

 ここまでで昼休みまで残り10分。
 「あ〜…やっちゃえっ」と、新しい曲を出す先生。
 「Rock my soul」(訳すると『ロックは私の韓国の首都』…嘘)
 4つのフレーズからなる黒人霊歌風の曲で
 (「さっきの日本民謡とノリが違うでしょ?」)、
 これも各フレーズごと先生が歌ったのを聴いて覚え、カノンで歌う。

 と、ここで午前の部終了。先生も最初とはうって変わって
 だんだんテンションも上がってまいりました(笑)
 「『Rock my soul』練習しといてね。希望者は前に出て歌っていいから」


 午後、「Rock my soul」実演の立候補をつのるが出てこないので
 先生の御指名で、前日の飲み会で先生と親しくなった(笑)
 弥生奏幻舎“R”の皆さんが前に出て実演。
 (さんざん「ヘンな合唱団!」と言われていてRの皆さんは嬉しそうだった 笑)
 実演終了後、先生、会場全体を見回し
 「特に女声の方々、『若いっていいわよねぇ…(溜息)』 とか言わないでね!」
 と。
 (この話は後ほどまた出てきます)

  続いて「混声合唱のためのアカペラエチュード」を使った練習に突入しました。
 まず「光が」
 「同じ音が続く時は上昇するつもりで(そうしないと音が下がる)」
 「メロディを聴いて感じたように歌う
 (ここは跳ねる、ここはレガート…と言ったように自分なりに考えて)」
 「強弱もリズムのうち」「音の入りは明確に、ダーツを狙って投げるように」
 「レガートとポルタメントを混同しない」
 そして「合唱に限らず、いろいろなものをやって感性を磨く
 (例えばバレエ、料理など)」ことの重要さを強調しておられました。


 次に「にわとり」
 楽譜上は♪.♪(付点8分−16分音符のスキップリズム)ではありますが、
 実際はそれよりも甘いリズムの感じで歌いました。
 3連符でもなく、♪.♪でもなく、その間の「ビミョ〜〜〜〜(原文ママ)」な
 感じが「日本人のリズム」だそうで、
 (そのため、外国曲の♪.♪がリズムが甘くなりやすい)
 決してこれを恥じたり直したりするのではなく、
 日本的な曲は日本的に歌うのが大事なんだそう。

 次に「ななくさ」。この曲、全パートメロディラインは同じなのだが、
 全パート調が違う構成になっています。
 ここで、昨年もやった音階の「ハンドサイン」
 (ドレミファソラシドを片手のサインで表したもの)を利用して、
 「移動ド」の練習。
 先生の出すハンドサインに合わせて階名で歌う。
 次に、途中でハンドサインを入れ替え、
 移調してさらにハンドサインに合わせて歌い続ける練習。
 (ド→レ→ミ→同じ音程でハンドサインをドに入れ替え→ド→レ→ミ→
  さらに入れ替え→…)


 次に「き」
 メロディ無しで言葉を呼んで伝わるかどうか?伝えられるか?
 ひとつの言葉に含まれる意味をたくさんイメージして、
 それに合わせてフレーズの歌い方を考えることの
 大事さを強調しておられました。

 ◎本日の第三ポイント「言葉の意味を深く考え、伝える」

 「『愛してる』の一言でも、無表情に言ったのでは伝わらない。
  本当に気持ちを込めて『愛してる!』
 (シンデレラエキスプレス乗車前のカップルのように)と」

 「自分の合唱団をつれてグレゴリオ聖歌の練習を受けた時、
  最初は一声の歌なので少しナメていた。
  しかし指導にあたったシスターは厳しくて、
  『あなた方の言葉には[祈り]がない。[Ave]のなかにどれだけの気持ちが
  込められているか考えていますか?』
  この時、自分の認識が恥ずかしくなった」


 「何故、無条件に『若さが良い』と言えないのか。
  年を重ねると結婚したり子供ができたりして守るべきものが増えてくる。
  それと同時に、捨てなければならないものも増える。
  明日はもう歌えないかも知れないと言う状況の中で『歌う』というのは
  いつでも歌えるという状況で歌うのと気持ちが違う。
  戦争で明日死ぬかも知れない状況の中で、この瞬間だけは歌おう!と
  集まってくるように。

  また、年を重ねると自分より弱いものに対して寛容になれる場合が多い。
  もし今ここに弱っている人がいて、その人のために皆で歌う事で
  力をあげることもできる。

  …宗教じみていると思うかも知れないけれど、
  合唱と言うのはキリスト教の宗教曲から始まったのだから、
  もともとそういうものじゃないかな?」


 「ステージに立つ時に、一人でも気持ちの冷めている人がいると、
  そこで全体の気持ちが分断してしまう。
  相手と気持ちを通じ合わせるのには実際にスキンシップをとったり
  手を繋いだりするといいんだけれど…やってみる?」

 という事で、となりの人と手を繋ぎ、もう一度「くじら」を歌うと…
 会場全体が一体感に包まれ、音が変わったのが明らかにわかりました。

 「となりの人の手は死んだように冷たくないよね?温かいよね?
  こういうつながりがあったら、…変な事件なんておこらないんだよ!」

 そしてさらに「ゆうだち」「おやすみ」を歌って席に戻り、
 もう一度ハンドサインのおさらいをして講習は終了しました。

 最後の質問タイムでも、会場から質問は途切れる事なく続き、
 その一つ一つに丁寧な回答をして下さった先生。講習会終了後も、
 サインを求める人々に取り囲まれていました。


 先生、この日のうちに東京に戻られたそうです。本当にお疲れ様でした。
 そして素晴らしい講習をありがとうございました!!



  以上でゴチさんのレポートは終わりです。
  最後にひとこと。
  「ゴチさん、お疲れさま! そして本当にありがとう!!」 

  そして札幌の元・住人として私からも

  「松下先生、ありがとうございました!!」

 


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