演奏会感想の部屋

 

                風の歌 Part2
          ヴォーカルアンサンブルによる“祈り”
           キリストご生誕への讃歌(ほめうた)



 指揮 片山みゆき
 演奏 うたびと“風”の集い
     アンサンブル風音・グレゴリア聖歌を歌う会・混声アンサンブルきなりね
     女声アンサンブル碧(あお)

 トリトンスクエア・第一生命ホール

 2002/12/14 18:00〜


 東京カンタート以来のトリトンスクエア。
 そういえば、片山みゆき先生の音楽を初めて聴いたのも、
このホール、東京カンタートという場だった。

 片山先生が指導されている4つの団体が集まってのコンサート。


 第1ステージ:グレゴリオ聖歌

 Salve Regina (めでたし女王)
 Alma Redemptoris Mater (恵み深い救い主の母よ)
 Rorate Coeli (天よ、高きより露をしたたらせ)
 Dominus dixit (主は私に言われた)
 Puer natus est (一人の幼子が)



 男声が中央の立ち位置で、まずは全団体合同の演奏。(約35人?)
 片山先生のグレゴリア聖歌はやはり “違う”。

 最初の音から声がふわっ、と浮き上がったような印象を与え、
その声がそのまま回転しながら前に、前に進むような。

 上方向にとても声が広がるイメージ。

 そして、エネルギーの推移が眼に視えるだけではなく、
アクセルを効かすように、エネルギーの増減、スピードの変化が
とても細かく、かつ分かりやすく伝わってくる。

 その結果、とても生き生きとしたグレゴリア聖歌に感じられる!

 ただ、東京カンタートの時にも書いたけど、
発声がそれほど「素晴らしい!」と言える団体ではないので、
男声の拡散するような響きや、コンクール上位団体で聴かれるような、
細部まで統一されたユニゾンを期待すると裏切られてしまうかも。

 それでもフレーズの収まりが最初から考えられていたような自然さ。
 旋律のひとつひとつが全団員に深く広く浸透しているのだなあ、
と改めて思い、感じ入りました。


 第2ステージ:
                        
 <ノートル・ダム楽派 作曲者不詳>
 Alleluya Dies Sanctificamus (アレルヤ、聖なる日は)
 <ギョーム・デュファイ>
 Alma Redemptoris Mater (恵み深い救い主の母よ)
 <ジョスカン・デ・プレ>
 Alma Redemptoris Mater/Ave Regina coelorum
 (恵み深い救い主の母よ/めでたし天の女王) 
 <ハインリヒ・イザーク>
 Puer natus est (一人の幼子が)

 このステージはおそらく、曲によって各団体が演奏というかたち。

 最初の「Alleluya Dies Sanctificamus」は
やはり声楽的には不十分な面が多く、
速いパッセージは喉を締めてしまい、かなりツラそう。
 男声のロングトーンも音程が不安定。

 しかし、曲が進むにつれて徐々に良くなり、
 デュファイ「Alma Redemptoris Mater」はソプラノの
軽やかさに好感を持ち、
 男声6人、女声11人で歌ったジョスカン・デ・プレの
 「Alma Redemptoris Mater」や「Ave Regina coelorum」は
ゆるやかに、かつとめどない流れの中、
演奏者のもっと高き所で
音楽が踊っているような、笑っているような。

 ・・・客席に暖かい陽ざしが差している、
そんな幸せな感情が底から浮かび上がりました。
 名演、でした。


 休憩後、
 第3ステージ:トマス・ルイス・デ・ビクトリア

 Ne Timeas Maria (恐れるなマリア)
 Conditor alme siderum (慈愛に満ちた星々の造り主よ)
 O Magnum Mysterium (おお、大いなる神秘)


 ビクトリアにはスペインの“熱さ”が必要だ!
と勝手に思っている私には(笑)、
やはり声楽的な練られ無さから来る説得力の不足、
支えや音圧の物足りなさに
最初は不満を感じていたものの。

 音楽が盛り上がってくると、音圧は少なくても
とても柔らかい刷毛で水彩絵具を重ねるように、
透明で柔軟な表現が、徐々に徐々に迫ってくる印象。

 それゆえ、太い音楽の流れでも
どこかに軽やかさ、フレーズの細やかさが感じられました。
 それが心へ着実に重なる感動を。

 
 第4ステージ:委嘱初演  新実徳英作曲

 New Gregorian Chant for Mixed Choir & 6 Glass Harmonicas
 「 TEMPUS ADVENTUS 」


 プログラムに書かれている新実徳英先生の文章を読むと、

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 これまで数多くの合唱の作曲委嘱をいただいてきたが、
[片山みゆき=うたびと“風”の集い]から持ち込まれた今回の
委嘱は極めて異色なものであった。
 第一にラテン語典礼文をテキストに、という注文。第二には
女声部に比して極端に男声部が少ない混声合唱であるということ。
 しばらく途方に暮れ、あれこれと悩んだあげく、新たな
「グレゴリア聖歌」を作ってみようと思った。
 6個のグラスハーモニカの響き合いから声のための旋律が
生まれ、単旋律からやがていくつかの声部へとふくらんでいく、
そのような作品となった。

 (後略)

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 男声を中心にした全団員がステージに立ち、
6つの譜面台にそれぞれ赤ワインが入ったグラスを備え付ける。
(正確には赤ワインだと糖分がありグラスが鳴らなくなってしまうので
 赤い色を付けた水、ということ)

 緊張感あふれるグラスハーモニカの音が重なっていき、
そこに女声のハミングが加わっていく。

 グラスハーモニカの音はシンセサイザーとは違い、
スピーカーを通していないので、その響きが人声を割らない。
 人の声とグラスハーモニカの響きが混じり合い、共鳴し合う。

 悲しみに満ちた旋律が湧き上がり。うたのような叫びのような。

 ヴォカリーゼを挟み、さらにその悲しみと叫びは最高潮に達していく。

 要所に挿入されるグラスハーモニカの音色が効果を上げ、
テキスト各部の長さ、収まり具合、その中で繰り広げるドラマが絶妙に絡み合う。

 グラスハーモニカにはもっと弱音が欲しい気もしたし、
「現代音楽」の表現では、
断ち切るフレーズの歌い方が効果を上げそうな場所でも、
やはり“いつものように”柔らかく収めてしまったり。

 ・・・しかし、そんな私の勝手な考えと関係なく、
この新しい曲を本当に説得力ある名曲にして聴かせてくれた。

 全国の団体に、ぜひともやって欲しい曲です!


 拍手の後「アンコール曲は用意していないので・・・」と
最初に演奏された「Salve Regina」をもう一度。

 しかし、アンコールの解放感を得て
さらに輝きと明るさが加わったこの演奏は、素晴らしいものだった。



 (あまり何度も書かれたくはないだろうけど)
声楽的技術は確かに優れている団体ではない。
 しかし、この音色、曲に対するイメージの多彩さ、深さはどうだろう。
 改めて音楽、ひとつの旋律を歌うということへの喜びを
教えてもらった気になった演奏会でした。




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