演奏会感想の部屋

 

   大阪府立春日丘高等学校音楽部文化祭


 2003年9月のよく晴れた日曜の朝、
私は安藤忠雄氏設計の「光の教会」を見学に大阪は茨木まで行った。
 その設計・建築の様子を描いた
(この本、安藤忠雄氏の姿を浮き彫りにし、
 “創造すること”の困難と素晴らしさを描きながらも、
 軽妙なユーモアが随所にあり、とても良い本です) 
 
 
 さて、礼拝も体験し、春日丘教会から茨木駅にバスで戻った私は、
今度は駅から近い某高校の学食でカツカレーを食べていた。

 某高校?

---------------------------------------------------------------------
 大阪府立春日丘高校
 2001年に創立90周年を迎えた
伝統を豊かに受け継ぎ「自主・自律」の充実した高校生活を目指している学校。
 卒業生には嘉門達夫・筒井康隆・槇原敬之にゼンジー北京などなど。
 ・・・ゼンジー北京・・・。
---------------------------------------------------------------------

 この日、9/28日は「藤蔭祭」と呼ばれる文化祭で一般人も中に入れたのだ。
 しかし、私は肉が限界まで薄いカツカレーを食べに来たわけでも。
 浴衣姿の女子高生を見に来たわけでも。
 学ラン姿の女子高生を見に来たわけでも。
 “不思議の国のアリス”姿をした女子高生を見に来たわけではない!(しつこい)

 「ハーモニー」誌HP連載中の
ユウさんとコウさんの代わりばんこ日記から
松下耕先生が書かれた8月17日の項を読んでみよう。
 8月16日から2日間に渡って東京文化会館で行われた
 「上野の森コーラスパーク」での
「大阪府立春日丘高校音楽部」の様子が活写されている。
 同じくコーラスパークにて春日丘高校を体験された
耕友会の“ごっどまざー”こと、しまこさんからも
この音楽部を絶賛するメールが届き
「ぜひともこれは行かねば!」…と思った次第。

 カレーを食べた後、校内の学生の“若さ”にアテられ。
(それは「爆発するカオス!」…って感じ。
 やー、世の教員のみなさま、アレに対抗できるなんて・・・尊敬いたします)
 ちょっと疲れたので外に出て学校周辺を回った後、
 (ラーメン屋「天下一品」が学校近くにあったのを発見し唇を噛む・・・)
14時頃に戻り、靴を脱ぎ、体育館へ。

 薄暗い体育館の中は、生徒やその父兄たちでぎっしり。
 吊り下がる緑色のネットや跳び箱がいかにも「体育館だなあ〜」と。
 吹奏楽部の演奏が終わり、14時20分ごろ緞帳が上がる。

 なにか文字がプリントされている赤いTシャツを揃えた
80名ほどの音楽部のみなさんが壇上に整列!(男声は20名ほど)
 山台…の代わりに教室でフツウに使うような椅子が泣かせます(笑)。

 ハキハキした東京弁で女子生徒さんのアナウンス後
男子生徒さんの指揮で最初は
 「私と小鳥とすずと」(作曲:鈴木憲夫先生)

 女声合唱で(女子生徒さん指揮)
 aikoの「カブトムシ」

 …おー。
 想像していたより、ずっと軽めの声、良く流れる発声に驚く。
 aikoの曲はポップスらしいリズムの強弱が足りなかったり
サビの部分ではノドを大きめに開くのとは違う発声の方が
より説得力があったような気がしたが、
最初のユニゾンのキレイさ、そして明るく軽めの声なので、
言葉がすっ、と前に出る。
 ソプラノの高音への狙いも的確。
 フレーズもキチンと息を流す自然で伸びやかなもので、
細かい部分への配慮もなかなか。

 ミュージカルをやっている、ということで
もっと音圧を強く出す、オペラティックなもの…と想像していたのだが。
 ハーモニーへの感覚も優れ、
オーソドックスな合唱表現として、とても上質だと思った。

 男声合唱で「U boj」の後
ふたたび混声で
 「木とともに 人とともに」
 (作曲:三善晃先生)

 コーラスパークで三善先生の前でこの曲を演奏した感動を語った後、
明るくハジけるように歌う音楽部。
 ピアノの伴奏もないし、難曲なので、そりゃあ多少の乱れはあったけど
 松下先生言うところの
 「個人個人が納得して、歌う喜びに溢れて歌っている」がとても感じられた。
 曲への共感の深さ、その共感を聴くものに伝える!という意識が高いのだ。
 「…うんうん」とうなづきながら、じんわり感動を確かめる。


 そしてお目当ての「CMソングメドレー」
 「先輩方が改良して常に進化中の曲です」と紹介された後・・・

 きれいなメロディが体育館に響き、客席が「?」となる中しずしずと
「住友生命」のカンバンが上がる(笑 ←納得の笑い)
 続いてヤン坊マー坊の「ヤンマー」
セクシーなバスタオル姿!…の男子が踊る「バスロマン」
「武富士」ではあのダンスを見事に踊る!
…男子生徒たち(そんなんばっかりかい)

 「ロート製薬」ではハトが飛び立ち、
通販番組パロディでは学生指揮者のオチ絶叫が冴える!

  ちゅうううとはんぱやなあああ〜〜〜っっっ!!!

 いやいや。…いやいや。全28曲。
 演奏中、笑って、素直に拍手を送って、また笑って。
 終わった後、周りの観客といっしょになって大拍手!
しながら「じ〜ん…」と感動している自分に気づいた。

 感動の理由のひとつには、それぞれの原曲の魅力を充分に活かし
「合唱」としてとても高い水準で演奏されていること。
 例えば「Qoo」では女声でファルセットっぽい声を使っていたのだが
単に「あのCMをマネしてみました〜」ではなく、
「あの声を合唱でやるといかに上手く、かつ自然に聞こえるか?」
という考えの下、良く練られ、歌うものに徹底されている印象なのだ。

 ポピュラーソングの合唱はいままで数え切れないくらい聴いていたが。
 やはりダサい。それっぽく聞こえない。合唱でやる意味が感じられない。

 だいたい
 「他がマジメな曲ばかりだから、ここらでポップスでも歌ってみっか」
 …ぐらいの意識ではあまりにポップスへの愛が足りないし。
 「フツウの合唱ってツマンない〜。こういう曲も歌いたい!」
 …とか思ってんだったら、カラオケボックス行った方が正直良いと思う。

 ポピュラー、オーソドックスな合唱、どちらも大好きで。
 ポピュラーのエッセンスを凝縮し合唱の方法論で演奏する!
 ・・・というのが良い「ポピュラー合唱演奏」への姿勢と思うのだが。

 それにはポピュラーの楽曲を分析する鋭いセンスと
その考えを合唱で実践する充分な力が必要だろう。
 いずれも実現するには一朝一夕、カンタンにできそうもない。

 春日丘高校音楽部の場合、
現役生の努力もあるだろうが、今までの先輩方が長年積み上げてきたもの。
 そしてなにより、今回は表に出られていなかったが顧問の
「清原浩斗先生」の力が大きいのでは、と想像する。


 そして、この演奏ではたいへん楽しい「フリ」が随所にあったのだが。
 この演出の思い切りの良さ、決して間延びしない進行のテンポ、と
つくづく感心してしまった。
 「オレたち面白いことやってまーす」という内輪ウケ、
演じるもののテレが多く、テンポだれだれ〜の「企画ステージ」が
世にはほとんどだと思うが、そんなのとは一段も二段も“ステージ”が違う。

 たぶんきっと、他の曲にも感じた「伝えること」を大事に思う心。
 それと、昔から何度も何度も観客の前でこの曲を演じることによって
表現が磨かれ高められていったのでは・・・と想像する。
 一般の、さして合唱に興味が無さそうなお客さんから
ここまで演奏中に数多くの拍手と、そして笑いを取れる合唱団は
全国を見渡してもそう多くないだろう。

 中学・高校生の合唱活動はコンクールが中心の団体が多いと思う。
 コンクールで素晴らしい成績を収めることや、
コンクールで記録に、記憶に残るほどの優れた演奏を目指すことを
決して私は否定するものではないが。

 ・・・しかし、極言すればコンクールに「観客」はいらない。
 その会場には進行のための係員と審査員がいれば、
おおよその用は足りると思う。
 「観客」は必要不可欠の存在では、ない。
 それは「コンクール」と「演奏会」の決定的な違いだろう。

 拍手や、笑い、といった感動する観客の反応を確かめながら
ステージ上で演奏、表現を自在に変えていく。
 演奏が終わった後、今日の観客の反応を振り返り、
そして次回の演奏によって変わる観客の反応を想像しながら
より良い演奏を目指し、練習していく。

 ・・・これって、とても自然なことだと私は思うのだけど、どうだろう?


 いろいろ、また余計なリクツをぶっこいてしまったが。
 演奏を聴き終わった後
 「ええモン聴かせてもろうた!」と思いそして同時に
 「もっと多くの人に聴かせたい!!」と強く思った。

 今年度、春日丘高校音楽部は「上野の森コーラスパーク」と
 (音楽部部室の前には三善先生の感謝状が飾られておりました)
 「全日本お母さんコーラス全国大会」などで演奏を披露したそうだ。

 3月の定期演奏会にも多くのお客さんが来場されることを願う。


 そして松下先生に同意するものとして例えば本当に、
「コンクール全国大会のアトラクション」、として招待して欲しいな〜!
 中学・高校生はもちろん、大学・一般団体でも眼をひらかれると強く思う。


 生徒さんのアナウンスにもあったが春日丘高校、通称「カス高」
 しかし“カス”なんて滅相もない!
 若さにアテられた体も忘れ、「…合唱っていいもんだなあ」と
つぶやきながら文化祭の賑わいを後にした。


 春日丘高校音楽部の様々な情報を発信しているのは
 「KOON in Web」
 (大阪府立春日丘高等学校音楽部OB会のページ)
 感謝です!



●「演奏会感想 目次」に戻る

*このページを無断で使用、転載することをお断りします。