演奏会感想の部屋

 

 
 (コーラスワークショップ in 伊丹 課題曲講習つづき)



 G3:とむらいのあとは
 作曲:信長貴富  作詩:木島始


 某大学合唱団の音源を聞いた後、
ハーモニー春号での作曲者自身の言葉
 「絶望の中からも希望の光を見出したいという詩人の祈りと
  私(信長氏)の願いとの共振」が引かれ、
 本城先生によるそれぞれの解説。

 「1-4小節はひとつのフレーズで歌うかどうか、解釈の分かれ目。
 B.O.は母音に祈りをこめて」

 (この “B.O.” 楽譜で見かけるたびに
  「びー、おー」と歌うヤツがいた高校時代を思い出す。
  …どこから 「お」 なんだよ?)

 「5-8小節の4小節でひとつのフレーズ」

 テンポ ♪=66なので、かなりゆっくりめの速度。
 それゆえ息が続かなく、難しい。
 最初に某大学合唱団の演奏を聞いたのだけど、
テンポの遅さに囚われすぎたのか、
あるいは私が想像できないような信念、理由があるのか、
音符のひとつひとつを区切って歌い、
フレーズというものがあまり感じられない演奏で、
どうにも首を捻ってしまった。

 「12小節目からの“銃”という言葉は非常に重要な言葉」

 ここからもフレージングが非常に難しい、と。

 「20小節目からのテナーは絶叫しない歌い方を」
 (すんげえ美味しいフレーズです)

 「28-32小節もひとつのフレーズにするかどうか」

 そして
 「ここはホモフォニックになり感情が昂ぶるが
  和音の移り変わりをそれぞれしっかり」

 「33小節目の8分休符の長さは本来の長さか、
  それとも間を持たせるか解釈の分かれ目」

 「42小節目にあるブレス記号だが、
  ブレス記号はこの楽譜中、ここにしかない。
  信長先生は、『ここ以外、ブレスをしてはいけない!』
  …と書きたかったのか(笑)。
  できるだけフレーズを繋げて欲しい、と。
  それとも? これも解釈の仕方」



 解説が終わった後、本城先生が指揮された
松下中央合唱団のこの曲の録音を聴く。

 遅いテンポでもしっかりフレーズを作り、
21小節からのテノールの上手さに「…じ〜ん」。
 聴いた後、会場中から拍手が!

 「歌ってみたくなる曲ですよね」と
音源に合わせみんなで歌ってみることに。
 うう、この遅いテンポはやはり難物。
 21小節からは本当に感動的だ。
 信長先生、やはりウマイなー、と思うのは
フレーズの良さもあるけど、従パートでも
主旋律を意識させられる音、掛け合い、
その末のホモフォニックで歌われる感動的な旋律、と
 「歌い手の生理をわかってる!」…という印象。

 ただ20小節からのテノール、
28-32小節の全パートもやはり「絶叫!」ではなく、
涙を抑え、それぞれの和音をしっかり出すのが良いのでしょうね。
 「心は燃えて、頭は氷に」という姿勢。

 しかし心に深いものを残す曲です。
 多くの高校生がこの曲を歌うのだろうけど、
感情に溺れないことを願うと同時に、
その真摯な声に期待してしまいます。


  「銃よりひとを しびれさす
   ひきがね ひけなくなる
   歌のこと」





 向井正雄先生の指導で
 G1:Sancta Maria
 作曲:Francisco Guerrero
を。

 この講習はモデル合唱団として
Vocal Ensemble《EST》から
各パートひとりずつの団員さんが
歌ってくれるという形式。

 各箇所を説明する前に、
このようなルネサンス・ポリフォニーを歌うときに
大切な点をいくつか説明されていました。

 合唱を長く続けている方々には自明の事かも知れませんが
基本的なことをおさらいする、ということで
長らく歌っていない私などには有り難いお話だったので
あやふやなメモを頼りに書いていきますね。


 ●一つ一つのパートが完全に独立している曲である。

 ●それを踏まえて、パート、個人でフレーズを確かにしてから
   個性を出し、その後で協調、アンサンブルを。

 ●常に声が揺れている状態の『トレモロ』は
  “必ず”無くして欲しい。
  意識的な『ビブラート』は表現として時に有効である。

 ●使われているラテン語に音程を付けず
  抑揚を付け、気持ちを込めて“読む”ことも大切。


 そして、それぞれの合唱団の個性として出てくる音楽、
同じ曲でも全く違った音楽、解釈が素晴らしい、とした上で

 「ルネサンス音楽は決してつまらない音楽ではない!
 …ということを熱く語る向井先生。

 でもそれでは、『様式感』というのは何か?
 ということになってしまうため、向井先生も
イギリスのルネサンス音楽専門家に尋ねたことがあったそう。
 その答え。

 「様式感とは名演をして
  聴く人が感動すればそれが様式になるんだ」


 い、いいんですかそれで?!
 …という会場の空気を察したように「しかし…」と続ける向井先生。

 「しかし、ルネサンス音楽が作曲された時代がどうだったのか、
  という想像が大切」


 それは例えば
 ●倍音が響く教会で歌われた曲であること

 ●聖書の言葉を聞かせよう、として作曲されたものであること


 などを言われていました。
 この「Sancta Maria」は2部に分かれているため、
1部、2部で対比をつけることが大切、として各部を説明。

 モデル合唱団に指示を出す時、向井先生は
 「これは “私の” 解釈です」という意味のことを
何度も言われていたのが印象的でした。
 ひとつの解釈であり、強制するものでは決してなく、
他の解釈を尊重する、という意味のように。

 ●楽譜は絵と同じ、として
 4小節からの下降音型は
 「マリアが上から下へ手を伸ばし
 “succure”(助けてください)という言葉に
 応えているとも解釈できる」


 ●パラグラフに合わせて音量を整理する


 たとえば21小節からはmezzo piano
 27小節からは高まりmezzo forte、というように。
 そうすると聴く者に分かりやすい。


 ●31小節の3声がホモフォニックになる部分は
  言葉が同じで大事な部分。
  ここをforteで叫ぶか、pで祈るか。


 ●31小節からソプラノ、テナーとも
  音型が上がり、気持ちが高まってくる。
  アルト、バスもそれに合わせるように。


 ●44小節の縦に揃う部分は
  「pで祈る」


 ●58小節(第2部)からの
  8分音符の上昇音型はアグレッシヴに。


 下への音型、上への音型、
 それぞれのパートの対比を認識すること。
 (「鏡の構造」、と)


 ●78小節からの
  アルト、テナー。
  ソプラノ、アルトと言葉が重なる箇所には
  「意志の強い音楽が欲しい」


 ●83小節からの
  下から上への音型は
  クレッシェンドを強調したい。


 ●87小節、91小節、どちらにもあるソプラノのFの音は
  91小節の音の方をよりピークに。

  (繰り返しの2回目だということを強調)


 そしてムジカ・フィクタについての説明がされました。
 えーと、これは・・・すいません。
 その成り立ちや理論的な説明はとても興味深かったのですが
その具体的な実行の方法をまとめあげるには
正直、私の手にあまります。

 「ハーモニー」誌、皆川先生のこの曲への文章を
ぜひ読んでいただきたいと思います。

 移調が自由なこの曲。
 純正律を目指す合唱団には
どの音を変化させるか、ということが
かなり重要な問題になるようで。


 この講習については向井先生ご本人が
HPでご説明しております。

 拙い私の覚え書きなため、
色々と間違いがあるかもしれません。
 お気づきの方はどうか掲示板、メールにてお知らせくだされば
大変嬉しく思います。

 コンクールに参加されるみなさん、がんばってください!



                               (おわり)