演奏会感想の部屋

 

 
 『第2ステージ 松下耕作品集』

 ・女声合唱のための『湖国うた紀行』

 ・「LEROY ANDERSON SELECTION」 arranged by 松下耕
  The Syncopated Clock
  The Waltzing Cat
  The Typewriter

 ・「Ave Regina coelorum」(女声合唱のための『聖母への祈り』より)

 ・「ことばあそびうた」(同声合唱のための『紀の国のこどもうた3』より)

 ・「馬来乙女マニヤナの歌える」(女声合唱とピアノのための『愛の詩集』より)

 ・「信じる」(平成16年度NHK学校音楽コンクール・中学校の部課題曲)


 昨年と同じく、作曲家でもある松下耕先生の作品を集めたステージ。
 松下先生作品の演奏で「自作自演」を超えるものはなかなか聴けることがない。
 そういう意味で現在、日本合唱界で人気がかなり高い作品を、
作曲家ご自身の指揮、指導を続けている合唱団の演奏で聴ける、というのは
かなり貴重な機会で、大変期待してしまう観客は私を含めて多いだろう。
 (だがこれだけ演奏技術が高いブリリと、非常にセンスある松下先生指揮で、
  違う邦人作曲家作品もまた聴いてみたいなあ、と思ってしまったのも事実)

 先生は黒のスーツ。団員はドレスが替り、ストールを思い思いに飾る衣装。

 やはり順に感想を。

 女声合唱のための『湖国うた紀行』。全4曲。

 “湖国”とは全面積1/6を琵琶湖が占める滋賀県。
 そこに歌い継がれる民謡・わらべうたを題材に作曲。
 滋賀県の女声合唱団栗東カレンヂェラにより委嘱。

 <まゆとり歌> (湖東地方・近江八幡市)
 抑えた照明のステージから、ソリストの優しい音楽が流れ出す。
 蚕から繭を紡ぐ、繰り返される労作歌が、合唱により様々な変化を。
 音楽のお終いはヴォカリーゼが広がり、
最初のソリストの音楽のように静かで優しい空気に落ち着く。

 <きせない> (湖東地方・彦根市)
 「きせない(着せない?)」という言葉が多様なリズムで、
旋律が複雑に絡む面白さ。

 <甲良の子守唄> (湖東地方・甲良町)
 「起きて泣く子は 面にくい」「嫁入りせん娘は わしひとり」
 …などの恨み節、哀切なヴォカリーゼが曲全体を覆う。

 <船おろし歌> (湖南地方・大津市)
 「船おろし」とは新しい船を水上に浮かべる進水式…とのこと。
 「サァ!サァ!」勇ましいかけ声。スキャット。
 「めでたいね!!」と力強くこの曲集を締めくくる。


 「LEROY ANDERSON SELECTION」 arranged by 松下耕

 昨年は「The Typewriter」だけを演奏したが、今年は2曲を加えて。

 なんとこの曲は
 「1週間前に仕上がった」(!)そうで。
 …ああ、歌い手の苦労がしのばれます・・・。
 「この一週間は戦場でした!!」…って松下先生!
 (まあ確かに前日に渡してくる、某S先生よりはマシかもしれませんが…)

 パンツスタイルに着替えた団員さんが入場。

 曲名だけを見ると「?」と思う人がいるかも。
 しかしどの曲も聞き始めれば「あ〜、コレね!」とすぐ思う
ルロイ・アンダーソンのユーモラスなオーケストラ音楽の合唱編曲版。

 <The Syncopated Clock>
 松下先生ご自身がウッド・ブロックを叩き、ベルなども使い、
時を刻み、そしてつまづく時計のリズムを楽しく表現。
 1週間前に出来上がった曲だというのに、
なぜかこの曲の演奏で、
去年感じられた良い意味での「軽さ」が私には届いた。なぜ??

 <The Waltzing Cat>
 キュートな猫の鳴き声がワルツ、歌に変る面白さ。
 笛を使う寸劇を挟み、最後のオチは
犬になった松下先生が吠える!…猫たち(ブリリ団員)の逆襲!!

 この2曲の演奏が終わった後、
「ほっ」という安堵の空気がステージ上に流れたのは
私の気のせいでしょうか?
 この曲の後の演奏は、かなり昨年までの雰囲気に近かったです。
 ・・・本当に戦場だったのですね・・・。

 <The Typewriter>
 絶妙!…そんな言葉しか出てきません。

 終わった後、いや演奏している最中にも客席から笑い声があがり
大変楽しいステージ。
 曲自体の楽しさもあるが、
ブリリ団員の照れや内輪ウケを全く感じさせない演技も大きな力である。
 (…こういう演奏が世の中に多かったら一般の「合唱のイメージ」も違うだろうなあ)

 どの曲も超絶技巧だし、洒落た寸劇を含む(無くても良いかもしれないが)ので
再演する団体は大変だと思うが、
こういう合唱作品としても優れて、さらに合唱の幅を広げる作品、
日本各地でどんどん演奏されて欲しいものです。


 <Ave Regina coelorum>
 恐るべき速いテンポで繰り広げられる様々な切り口。
 深さと軽さ、柔軟さと硬質さが流れの中、余裕の表現で。

 <ことばあそびうた>
 「寒川村の村長さん」「住蛇池に」「べろべろの神様」の3曲を連続で。
 和歌山県のわらべうた。

 軽やかなスキャット。
 「寒川(そうがあ)村…」は「ソーダ村の村長さんがソーダ飲んで死んだそうだ」
 という有名な曲をコミカルにカッコイイ現代的なアレンジで。
 曲中、村長さんが死んでしまう姿を寸劇で…生き返っちゃう?!(名演技でした〜)

 他にもコドモっぽい声などの、声の方の演技でも多彩で面白く。

 <馬来乙女マニヤナの歌える>
 ややエキゾチックなピアノの前奏から、「愛の歌」を。

 <信じる>
 2004年度のNHKコンクール・中学生の部の課題曲を演奏会の最後に。
 会場の一番前の席を陣取る、女子中学生たちに
 「…この曲のために来たんだよね?」と、松下先生(笑)。

 谷川俊太郎氏の詩に音楽を付けるのは時間がかかった、と
作曲する上での苦労を語られる先生。
 コンクール用の楽譜は長いため、NHK側の要請により一部をカットしたそうで、
今回はカットしていない最初の、オリジナル・ヴァージョンで演奏。

 今回のブリリ演奏会、プログラムの文章はどの曲も相変わらず良いが、
 この<信じる>の曲紹介を抜粋しよう。



 詩は谷川俊太郎による書き下ろし。研ぎすまされた感性によって
選び出された言葉のひとつひとつは、ストレートに人の心を打つ力
強さを持っている。
 「信じる」ことへの葛藤、思いが綴られているこの詩は、人と人と
が傷つけ合ってしまう悲しい現代に、「信じる」という意味を私達
ひとりひとりに、そして世界に向けて問いかけているのではない
だろうか。
 それを受けとめるように、曲もまた奇をてらうことなく詩に込
められた思いを素直な音で表現している。
 その真摯な音は、言葉と共に心の奥深くに響く。
 詩の中にある「葉末の露」のきらめきを表したかのような冒頭の
ピアノの旋律が、合唱へと受け渡される時、それまでの「信じる」
ことへの葛藤、不安は、「信じる」強さへと変っていく。
 「信じる」こと、信じあうことで世界は変わる。そして、それが
世界をつなぐ。そう私達は信じたい。



 目覚めた朝のオルゴールのような、遠くから聞こえるようなピアノの前奏。

 旋律の、それぞれのはじまり、耳に届く音楽が柔らかい。
 歌によって撫でられるよう。

 高知CWSなどでも聴き、感動したこの曲だが、聴くその度に思うのは
「信じる」という言葉の強さ。
 「願う」でも「夢見る」…では決して換えられない、「信じる」自分の中で、
真実となっている姿、世界が心を打つ。

 強さを増していく音楽。繰り返される「信じる」という言葉。曲終盤の


   葉末の露がきらめく朝に
   何をみつめる小鹿のひとみ
   すべてのものが日々新しい
   そんな世界を私は信じる




 ・・・団員が「信じる」、という新しい世界の光が、
聴くものの身体を洗うように流れ出し、優しく降りそそぐ。


 その感動を表す、ホール中に鳴り響く、強く長い拍手。



 アンコールは<えっさっさ>(松下耕作曲)。


 今年、Brilliant Harmonyはこのコンサートで
15回の記念すべき演奏会を迎えたということで、
プログラム、松下先生の文章も
『感無量』…という題でその喜びを語られている。

 第1回定演から今回の演奏会まで、
この技術がとんでもなく高い、一般女声合唱団という継続が難しい形態で
オン・ステージされている方が3人もいらっしゃることに驚き、敬意を抱く。

 3年前から3回の演奏会を、中断しないで聴き続けるのは私にとっても希。
 そしてその結果多くのブリリ団員の顔と名前が一致するのにも、
 (男性、女性の区別なく人の名前がなかなか覚えられない私にしては)
改めて驚いてしまう演奏会だった。


 今回はやや厳しい感想になってしまったが、
それでも私は来年、第16回のBrilliant Harmony演奏会を聴きに行きたいと思う。

 心の中を探ると、「それでも」行きたい理由というのはいろいろ見つかるのだが、
そんな理由を説明せず、ただ、Brilliant Harmonyを信じる。

 団員さんみんなが、欠けることの無く、元気な姿をステージ上で見ることの出来るよう。
 そしてまた素晴らしい演奏を聴かせてくれることを。


 信じる、という私の中で真実となった世界が、
Brilliant Harmonyのみなさんの力になるように。
 「夢見る」でも「願う」のでもなく、ただ私は、「信じる」。


 


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