演奏会感想の部屋

 

   
 「ある、MIWOな1日」
 感想その2



 
 第3ステージは合同で
 リドホルム「・・・a riveder stelle」

 (星々を再び仰ぎ見ようと・・・)
 〜ダンテ 神曲より〜


 ・・・で。この合同ステージはどうだったかというと・・・。








 「良かったんだ! これが!!」

 人数が多いゆえの厚み、のびやかさと明るさの「ある」。
 音楽の起点など細部の表情、センスに優れた「MIWO」。

 互いに優れた部分を出し、
魅力を持つひとつの合唱団としての演奏。

 もちろん合同合唱ということで粗い面は多々あったが。

 女声の大音量のヴォカリーズがゆらぎ、ぶつかりあい。
 男声のぶ厚い和音が交じり合う。
 16パートにも分かれるこの曲はプログラムにも書いている通り、
まさに『声による交響詩』。

 上へ! 上へ!! …と常にハイテンションで
上昇し、広がる、ダイナミックな音楽がずっと続く。
 それなのに飽きずに惹きつけられてしまうのは
指揮者:大谷先生の表情付けの多彩さや
巧みなバランス・コントロールのためだろう。

 終わり近く、男声の音に不安を感じながらも
無調から長3和音になる壮大なカタルシス!

 そして荒れ狂う海の大合唱を鎮めるように、
MIWOコンサート・ミストレス、
高橋淳子さんのソプラノソロが会場に満ち、
激しい波がゆっくりとおさまるように、余韻を残し、音が引いていった。


 この「合同合唱」にふさわしい選曲ということももちろんだが、
両団の個性が表出し合えば、
こんなに魅力的な「合同ステージ」に成り得るんだ、ということを
初めて教えてもらったようなステージだった。




 第4ステージ 合唱団ある単独ステージ
 木下牧子の合唱曲

 
 指揮は福原先生と松前良昌先生。
 オルガンは和田之織先生。

 「めばえ」
1997年のNHK音楽コンクール高校生への無伴奏課題曲。
 (詩:みずかみかずよ)
 
 ゆったり、柔らかな拍節感が心地良く。
 第1ステージでは陰になっていた男声も
表現が前へ出るように。
 「のびあがってくる」からの終盤へ向けては
曲の良さと「ある」の向日性…とでもいう長所が抜群の相性。

 些細なことだけど「はる」の「H」は確かに出しづらいよね・・・。
 それでも終和音へのデリケートさなど、
この曲を愛しているのが分かる演奏。

 余談ですが、この課題曲「めばえ」。
 菅野正美先生指揮する安積女子高の演奏は
私の知っている限り「日本語の合唱演奏」で最上の部類だと思います。
 (名古屋時代、深夜オトコ4人、車のオーディオで
  「…いや、スバラシイね」「信じられんなぁ」
  「も一回聴こう!」・・・の際限ないループで
  少なくとも20回は続けて聴いたのを思い出します)

 これに匹敵するのは阿部昌司先生指揮の山形西高
高田三郎先生作曲「花野」…でしょうか。
 (いつの年か分かりませんが全日本コンクールの自由曲)

 これほど日本語の発音、語感にこだわり、
それだけに終わらない感動的な名演の音源!
 …を他にご存知の方、どうかどうか教えて下さい。


 「サッカーに寄せて」(詩:谷川俊太郎)

 無伴奏で。
 しなやかな流れのもと、巧く言葉をあてはめていく。
 明るくテンポ弾む曲なのになぜか胸を締め付ける切なく良い演奏。
 「蹴っとばされてきたものは 力いっぱい蹴りかえせ!」


 「うみ」
 (詩:谷川俊太郎)
 原曲はピアノ伴奏つきの同声合唱曲ということ。
 オルガンの改訂初演版で。

 パイプオルガンのある広島のホールは
このセシリアホールだけだそう。
 エリザベト音大を卒業された和田先生は
このパイプオルガンを熟知しているようで
合唱を優しく包む好演。


 「鴎」
 (詩:三好達治)

 この曲もオルガン伴奏の改訂初演版。

 壮麗な、美しいオルガンの前奏が鳴り響く。
 オルガンだけで完結するのではなく、
次のフレーズを期待させるように止まり、
一瞬の間のあと合唱が
 「ついに自由は彼らのものだ」 と入ると…涙腺が!

 オルガンは最初、合唱のフレーズ終わりを飾るぐらいだったが
徐々に合唱と交じり合い、ぶつかり、支えていく。
 後半の激しくリズムを打つようなオルガンの変化。
 この曲に対する木下先生の考えを知ることができた。

 合唱が高まっていくと同時にオルガンも高まり。
 力任せの発散では無い、
しかし充分なクライマックスに満足。
 特に合唱との音量バランス、音色、テンポなど素晴らしい演奏だった
オルガンの和田先生に拍手!




 第5ステージ MIWO単独ステージ

 シェーンベルク「Friede auf Erden」(地上の平和)


 指揮:大谷研二先生

 まろやかな、良く混ざり合った声。
 ひそやかに歌い出されたその歌は
どこまでもすぐに行けるのに、
自らを抑えながら徐々に高まって行く。

 今回のMIWOの演奏で素晴らしかったのは“休符”。
 「休符も音楽」なんて生易しい言葉では足らない。
 語りかけられるような旋律のあと、
ちょっと考えるような、溜め息のような、意を決する直前のような…
そんな瞬間の“間”と同価値に休符が存在している。

 そして休符のあと鮮やかに色を、表現を変える凄み。
 最初の和音から見事に合い、世界を創り出す。

 「Doch es ist ein ew'ger Glaube」
 (にもかかわらず それは永遠の希望である)


 激しい音楽はこの上なく激しく。
 その直後素晴らしく甘いテナーの歌が入る。

 静と動。
 聖と俗。
 生と死。
 闇と光。

 あらゆる対立する概念を瞬間ごとに織り交ぜ、
それでいて確かな、なめらかで美しい音楽が進んでいく。

 この感情と、表現と、音楽の密度はどうだろう。
 その情報量に圧倒され、痺れたようになっていた。
 そしてこの曲の残りを測り、
 「まだ終わって欲しくない!」と強く願う自分がいた。

 残念なのは後半のフォルテッシモ。
 「壊れてもいいから、もっと声を!」と思ってしまったことだ。
 この難曲で理性を捨てず、「良い声」をギリギリまで保った
ハイアマチュアのMIWOだからこそ言えるのだろうけど。
 しかし、発声面でアマチュアというものの
限界を感じてしまったのも事実。

 そんな残念に思うのも一瞬で
音楽は美しいピアニッシモから新しく始まっていく。

 呼び交わされ、高らかに歌い上げられるその声の輝かしさ。
 「Dessen helle Tuben dröhnen:」
 (その輝かしいラッパが響く)
  
 なんと息の長いフレーズ!
 どれだけの感情と表現がその一音に込められているのだろう。
 その休符に込められているのだろう。最後の1節。

 「Friede,Friede! auf der Erde!」
 (平和あれ、平和あれ、この地上に!)



 MIWOの、これほどの演奏は今まで聴いたことが無い。
 アマチュア合唱のある種、極限とも言える演奏。

 大谷先生は
 「当分『地上の平和』の演奏はしたくない」
 …と仰っていたようだが、
その言葉も充分頷けるほどの渾身の演奏だった。
  




 アンコールは最初がMIWOで岩本先生指揮
Jaakko Mäntyjärviの「Ave Maria」
 男声がグレゴリオ聖歌を繰り返す中、
女声は歌わず、「Ave Maria, gratia plena…」
と語りかけていく。
 不思議な雰囲気の中、祈りが受け取られる曲と演奏。

 続いて「ある」は権代敦彦先生編曲による
「お手てつないで」
(「夕焼け小焼け」の編曲)
 フレーズの端々で突然ロングトーンになり
断片的に言葉が歌われる。
 決まった音形のピアノが繰り返され、
UFOが降りてきそうな、
死後の世界を連想させるような音楽。

 最後のアンコールは合同で大谷先生指揮
Rutter「Candle Light Carol」
 クリスマスの楽しく優しい雰囲気で良い締めくくり!


 演奏が終わった後、ロビーにて
年若いMIWO団員の男性に会い
 「遠いところをようこそ…」といういつもの言葉に
 「今回はソッチの方が遠いよ!」と笑わせてもらう。

 「なんだか、あっという間に終わった感じだったね」と言うと
 「そりゃMIWOはいつも3時間ぐらい演奏会してますから!」

 そうだ、どうりで2時間を少し越えるくらいのこのコンサート、
短い、というか物足りないと思った。
 アンコール曲を始める前の
 「今日はクリスマスの気分で!」という大谷先生の言葉から
合同のクリスマスソング・ステージが始まっても良いぐらいだったな。

 それだけ中身のある、
終わるのが惜しいジョイントコンサートだった。
 プログラム中の大谷先生が書かれた
「ある」、「MIWO」の共通点。

 「合唱団としての自立」
 「音楽を心から楽しむ姿勢」。
 「音楽への謙虚で真摯な姿勢」。
 「そこには、いつも和やかで新鮮な空気が溢れている。
  密度は濃いが、どこか朗らかで暖かな時間が流れている」

 大谷先生のそんな言葉がとても共感できる演奏会だった。
 そして最後のこの言葉にも。

 「だから私は、この2つの合唱団が大好きなのだ」




 プログラムのMIWO:佐々代表のメッセージには
平和都市としての広島から、
祈りを込めて歌う・・・という意の文章があった。

 指揮者同士のトーク中にも触れられていたが
このジョイントコンサートは
あるが演奏したパレストリーナ「Missa Brevis」の
「Dona nobis pacem(我らに平安を与えたまえ)」
から始まり、
MIWOが演奏したシェーンベルグ「地上の平和」。
 「Friede,Friede! auf der Erde!」
 (平和あれ、平和あれ、この地上に!)

 …で終わる形になっている。


 それぞれの土地の合唱団が、
こうして巡り合い、縁を作り、そして合同の演奏会をする。
 これこそ「平和」のひとつの姿だと思う。

 ある、MIWOの歌へ込められた願いとともに
その歌の願いがこの感想にも宿ることを願い。
 そしてこの平和が永遠に続くことを強く、強く私も願う。





 (おわり)




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