演奏会感想の部屋

 

 
      全国大会一般Aの部感想



   
 一般部門Aグループ(8人以上32人以下)は
2004年11月20日(土)15時30分から行われました。
 会場の愛媛県県民文化会館メインホールは
3000人収容というとにかく大きいホールで5階席まであって。
 (しまった! 3階までしか行ってない!!)

 ホールが大きい分、音響の面では・・・という部分があり、
Mix voiceがほとんど聞こえてこない印象。
 Aグループでは(発声の種類もあるのでしょうが)
25人以上の団体には「届いている」感が多かったのですが、
それより少ない人数の団体にはかなりキツいホールだったようです。

 Aグループ全体の印象では正直に書かせて頂くと
 「銅賞団体の方が“面白い”団体が多かった」…です。
 上位の賞を受賞された団体には、その賞にほとんど異議はありませんし
個人的に審査結果前に予想したのとほぼ同じだったのですが

 「上手いことは素晴らしく上手いけど、ちょっと、こう・・・」

 指揮者、歌い手のイメージする音像が詰まっている、というか。

 (そんなことは無いのだろうけど)
 来年も出場したらほとんど同じ印象なのでは?というか。

 (そんなことも無いのだろうけど)
 演奏会でもあまりヴァリエーションを感じさせないのでは?というか。

 とにかく演奏の「その先」、未来をあまり感じさせない団体が
上位団体には多かった気がします。

 もちろん豊かなイメージ、「その先」を感じさせる下位の団体は
目標を100%とすると、実際の演奏は70%か80%。
 私の感じている面白さは、
その至らない20から30%に、私自身の理想の演奏を
勝手にイメージしてしまっている面白さかもしれません。

 聴いていて、どこか窮屈な、「やり尽くしている」印象がする
上位の団体の演奏は、そこまでイメージを具現化したことにも
敬意を払うべきなのでしょう。


 全団体を聴きましたが、金賞受賞団体すべてと
銀賞、銅賞団体の一部の感想を書かせて頂きます。
 なおこの感想は私、文吾の非常に勝手な感想です。
 「こんな感想を持つ人間もいるんだなあ」程度に軽く読んで頂ければ。
 …そして時によっては忘れて頂ければ、お互い幸福に暮していけると思います。
 世の中には憶えておかなくても良いことはある、ということへの証明が
ここに存在します。


 演奏曲はこちらを参照お願いします。


 <銅賞受賞団体>

 イトウ・キネン・シンガーズ
 (長崎県・九州支部代表・混声23名)

 課題曲は遅めで表現をひとつひとつ確かめるように進んでいく。
 そのため各パートでのテンポのズレや
全体の流れがやや滞っている印象も。
 それはブロックごとに「間」を作っているせいもあるが。
 しかし、そのブロックの場面転換の鮮やかさは素晴らしい。
 このホールの聞こえ方のためとも思うのだが、
自分たちを発散できぬまま終わってしまった気もする。
 あとテナーがとても良かった。

 自由曲1曲目はソプラノに不安定さがあるものの、
脆いガラスのような、薄く切ない美しさは目を瞑らせる。
 2曲目は跳ねるリズム、躍動感が充分に効果を上げていた。

 課題曲が特にそうだったが全てにわたって
優しく繊細で上品な表現がとても好印象。
 そして屹立する高い精神性に、聴きながら尊敬の念が湧き上がる。

 この「全日本合唱コンクール」出場団体の
再生産、という感じが多くする他出場団体と比較し、
響きやアンサンブル、表現や声。
 それらの目指すものが、高く、輝く星のように存在する、実に志の高い演奏。

 目標とするものは高ければ高いほど良い。
 それはきっと目指す人のどこかに現われてくる。
 ・・・そんなことを演奏で教わったような気がする団体です。



 弥生奏幻舎“R”
 (北海道支部代表・混声18名)

 課題曲は残念ながら力を出し切れなかったか。
 発声面全体で乗り切れないような印象があった。
 フレーズの力感など、良かった面があっただけに惜しい。

 自由曲から“R”の本領発揮。
 こちらへ迫ってくる音楽。その切迫感、イメージ、リズム、カーックイイ!
 ソプラノの音色を変えられればいいな…など、
やはり声楽的に難はあったが、音楽が変わり遅いテンポで歌う
そのソプラノのイメージの豊かさに背筋がゾクッと来たり、
音楽の隅々まで現代的なセンスある切り口、
――それはクラシックの世界に留まらず
かなり“トガった”数多くのジャンルの音楽からもそのセンスを吸い上げ、
洗練させ、合唱という形で非常に上手く表現している。
 しかも指揮者の幅広く高いイメージだけが先行するのではなく、
歌い手と見事に噛み合っている印象。ヤルなあ。

 「合唱ってカッコイイものだ!」…そう言い切れる可能性を持つ団。
 “R” is Cool!



 一関市民合唱団
 (岩手県・東北支部代表・混声24名)

 課題曲はとても安心できる音楽の運び。
 ゆるやかに全体をひとつの流れとする。
 その分、各表現の輝きが薄れている印象もあるが…。

 自由曲は表現にケレン味が一切無い。
 流麗で、元々やわらかな曲調だが、そのやわらかさ、優しさが深い。
 1曲目は団の雰囲気に合ってはいたが、
2曲目になると声の純度の低さが気になったり、
楽曲の世界を彫り込まず、あくまで自分たちの感じるだけの世界で
押し通してしまっているのは気になると言えば気になる。

 しかし、至らない部分を決して背伸びせず、
どの表現もどの表現も歌い手の人間で満たしている。

 超絶技巧を駆使する若めの合唱団も、
年齢を重ねていけばいつかこういう妙なる味が出てくるのだろうか?
 滋味あふれる演奏であり、合唱団。



 <銀賞受賞団体>


 クール・ヴァン・ヴェール
 (埼玉県・関東支部代表・女声26名)

 課題曲は遅めのテンポで、
残念ながら推進するエネルギーが失速してしまった印象。

 自由曲は中学生や若めの合唱団などで
音程バッチリの隅々まで整っている演奏を数多く聴いているので、
声の純度が低めの、音程に乱れが多いこの演奏は「?」…という
気持ちが正直、ある。

 しかしテクニックではなく、気迫でその音像を絞り出す、と言うのか。
 この楽曲の世界を説得力たっぷりに聴かせてくれる。
 音量の増減などはさほどでもないが、気合いの量の増減がスゴイ。
 気、気、とばかり書いているが、
そういう肚の底から出る迫力を感じましたよ。むう。



 ゾリステン・アンサンブル
 (島根県・中国支部代表・混声26名)

 昨年、今年と連続出場した団体の中で
一番の成長株!…と断言しても良いんじゃないでしょうか。
 それほど驚き、目を見張った団体。

  課題曲はひとつの流れで音楽を作っており、
非常にまとまりが良い演奏。
 感情表現の振幅が狭い気もしましたが、
その分さくさくと音楽が進み小気味良く、
聴いていてとても気持ちが良かったです。

 自由曲はやはり各表現が流れの中になされているのに好感。
 音楽のブロックごとの表現に凝る団体は数あれど、
全体の構成からそれぞれの表現を考えられる、
このような団体はなかなか少ない。
 ただ、流れを重視するあまりか、それぞれの深み、という点では少し不満。
 しかし自然で作為的ではない、
それでいて良く考えられた表現が実に納得いきました。
 音の広がりのイメージ、フレーズの流麗さもとても良かったです。

 私個人の好みをさらに言えば、ケレン味は必要ではないけれど、
表現の振幅の狭さを「浅さ」に捉えられないような工夫が
何か必要かな、と感じました。

 今年度の上位団体は「Aグループ」と言えども
大人数のBグループと音楽的にさほど変わらない団体が
多かった気がするのですが、
ゾリステンはAグループの特色である
「少人数でアンサンブルする」感覚を充分味わせてくれた上に
完成度の高さが大変嬉しかったです。
 これからさらに良くなるような予感、イメージを抱かせます。
 来年、さらに期待してしまうなー。



 アンサンブルVine
 (京都府・関西支部代表・混声28名)

 あー。やはりこういう繊細な響きの団体は
このホールで聴くと3割ほど印象が薄まってしまうのか・・・。

 まず団員の見た目が若い(笑)。
 課題曲はアイ・コンタクトなどで「アンサンブルしよう!」という
意志が非常に感じられる。
 ただ、「できていない」部分を目配せで補う、という印象もあり、
それが見た目の若さと伴って、なんというか・・・いじらしい。
 柔らかく、軽く、それぞれの感情を各パートで受け渡していくような音楽。
 そしてその音楽を大切にするがゆえにちょっと遅くなってしまう、ような…。

 自由曲も無理をしないし、させない音楽。
 言葉もとても自然に流れていく。
 隅々まで整った透明な音。空気の軽い層。やわらかな風。
 表現のそこかしこ、音楽の全体像は実に知性的。

 この合唱団の目指すものはとても高いし、それは非常に好ましい。
 ただ(前述の通りこのホールのためもあるが)その伝わりが
説得力を持つか、音楽にそれだけの力があるか、というと少し疑問。

 それでも宝塚のベガ・ホールで聴いたときの感動を思い出すに、
良い指揮者の元、良い仲間たちで、良い音楽を目指しているのだろうな、
という雰囲気をとても感じさせる。
 また聴く機会を楽しみにしています!



 <金賞受賞団体>


 合唱団まい
 (長野県・中部支部代表・混声18名)

 合唱団全体がひとつの生命体となり、
脈動を感じさせるようなリズムの課題曲が見事。
 波のように旋律が寄せては返し、
 「いまこの曲を歌っている!」という喜びがあふれている。

 やはりこのホールでこの人数ではかなり厳しいものがあるのか、
宝塚の時よりもアンサンブル感、リズムのズレ、
ベースなどの声の荒さも感じてしまったが。

 音量の増減と感情がシンクロしている自由曲。
 音を転がすような軽やかさ。
 心の底からの感情を吐露するような表現、声。
 大人の演奏、というものを聴かせて頂きました。



 ヴォーカルアンサンブル《EST》
 (三重県・中部支部代表・混声32名)

 自由曲は無声音の発音が風になる。
 息を吐く。ステージ上で鳴り響くエコー。カノン。
 やはり動きもある演出付きのこのステージは
非常にインパクトのあるものだったが、
本当に残念ながら私にはこの曲と演奏の魅力が分からなかった。
 すいません!

 素晴らしかったのは課題曲。
 一般AB、この曲を演奏した団体の中で
私にはこの演奏が一番良かった。

 やや軽めで明るいが、まとまりのある響きが、
旋律の陰影を余すことなく伝える。
 フォルテからピアノまでの振幅の幅も説得力があったし、
後半のリズム、旋律の明るさへの変化にもイヤ味がない。
 なんだか作為的な、わざとらしさが出てしまう
難しい曲だと思うのだけど、この団体は自然で、
かつ深い印象を与えてくれた。



 マルベリー・チェンバークワイア
 (神奈川県・関東支部代表・混声25名)

 まず発声がとても鳴る、声楽的に練られたもの。
 声!声!そして声!さらに声!やっぱり声!…という感じ。
 ただ、「偉大なるソプラノ様とそのしもべたち」という印象もあり、
伴奏パートの役割があまり効果的に聞こえないような…。
 課題曲は重みがありながらも流麗さがある良い演奏。

 自由曲はそれぞれタイプが違った現代曲3曲。
 1曲目は厳しい雰囲気の曲で、後半にやや乱れが?
 2曲目は美しい名曲で、ソプラノパートが際立つ曲だが、
それにしてもバランスとイメージするものが
ソプラノと他パートは違いすぎる気もする。
 もちろんこれはMix voiceが聞こえにくい、
このホールの音響のためもあるのだが・・・。
 3曲目は「合唱団響」の演奏以来、久しぶりに聴く作曲家の作品。
 手拍子やタンバリン、太鼓などの鳴り物を使う、
リズミカルな楽しい作品。
 演出もあったが女声が硬く、恥ずかしがっている印象で
見ているこちらがちょっと赤面。
 (男声はノリノリで良かった!)
 こういう演出をやるんだったら、もっと吹っ切って、
 「観客を自分たちの世界に引き込む!」という強い意志が欲しいような。
 そして1曲目はともかく、2曲目、3曲目は
この合唱団が本当にやりたい曲なのかなあ?という疑問も出てしまった。

 「合唱」として聴く分にはアンサンブルやバランスの悪さから
「?」という部分もあるかもしれませんが
 「声楽アンサンブル」として聴くのだったら
高度な発声に唸らせられる、技術水準の実に高い団体。

 あと、この団体、衣装がとてもカッコ良かった。
 女性は黒色統一した思い思いの服装で、
その中の、肩出し衣装、ブーツのお姉さんが颯爽!
…と出てきたときには知人の女性は
 「きゃー!」と叫んでいました(笑)。



 会津混声合唱団
 (福島県・東北支部代表・混声32名)

  課題曲はややゆったりめのテンポの中で
各パートのフレーズが見事に交わり重なり合い、
本当に流麗な演奏。

 自由曲1曲目は計算された音響世界とその広がりが
聴いていて思わずうなづいてしまうほどの説得力。
 2曲目(団員さんがWYCの演奏を聴いて楽譜にしたとか)は
フィリピンの民族系リズムの軽やかさが
また1曲目とガラリ、と世界を変え、
楽しく浮き立つ気持ちと「どうなっちゃうの?!」という
やや不安に演奏へ集中させられてしまう相反する心が
自分でも面白かったです。
 ソロ、ソリストの方達も飛び出るのでもなく、
合唱とちゃんと調和して、それでいてこちらへ音楽を届かせていたのが立派。
 どの曲もどの曲も誠実に練習を積んだ抜群の技術力で、
聴いていて実に安心して聴いていられました。
 そしてこの団体を聴いていていつも、
易きに流れない、確固とした抒情、というものを感じさせるのです。
 浅い感傷ではなく、心の深い部分で慈しむような・・・。

 正に1位にふさわしい演奏だったと思います。



 クール シェンヌ
 (奈良県・関西支部代表・混声32名)

 課題曲は深く熱い演奏!
 音に涙を一滴落としたような、それでいて節度ある演奏に好感。

 自由曲2曲は曲自体がそうなのか、
それとも表現や音楽の掴まえ方のためか、
私には同じような曲が並んだ印象。

 それでも、歌心がある見事なソプラノだけが際立つのではなく、
他パートも良く支え、アンサンブルしている感じはあったし、
音楽も流麗で、聴いていて安定感を感じさせる演奏でした。

 これからどんな風にその世界を広げて行くのか、楽しみな団体です。




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