「合唱団訪問記」
『Brilliant Harmony訪問記』
その2
<19:47>
ふっ、と扉から覗いたお顔。
松下先生「あれ? 浅井先生じゃないの?!」
・・・と、松下先生も気づき、
ピアニストの浅井道子先生をお出迎え。(全員拍手!)
この演奏会の最後を飾る三善晃先生の「三つの叙情」。
演奏会前に浅井先生のピアノで聴けるとは!ゼイタク!!
浅井先生が準備をされている間に
「♪もしも死が〜」…と歌い出す松下先生。
…せ、せんせぇ、それは「三つの夜想」では・・・。
浅井先生も「・・・その曲ですか?(笑)」と笑いながらピアノの前に。
1曲目の「或る風に寄せて」から。
煌めくピアノの前奏。
柔らかなメゾ・ソプラノの旋律からはじまり、
ときおり松下先生の指示が飛び、全体を通す。
松下先生「『ふるさとの夜に寄す』もそうなんだけど
夕暮れが夜に変わっていく、
辺りが暗くなっていく、と
『自分の気持ちを包んでくれる』、ようなね。
辺りが明るいと、自分が卑小化されてしまう。
“暗くなる”…と言うことで、
非常に自分の気持ちが出しやすくなる、
そんな気持ちで」
2曲目の「北の海」がやや厭世的な心から出た世界、ということから
松下先生「1曲目と3曲目は
自分の気持ちが救いを求める。
・・・自然や神、そして自分自身に救いを求めている。
『西風よ』の部分で柔らかく歌ってしまうと
その救いを求める気持ちが
“揺らいでいる”ように聞こえてしまう」
各パートの音量バランスにも注意しながら、
この楽曲の「歌うことの背景」を自分の心から説明していく松下先生。
松下先生「『西風』や『夕暮れ』…などという言葉は
どちらかというと、ネガティヴな言葉なんだよね。
だけど、そこにこそ自分の気持ちを置きたい、と言うか。
暗いところに自分を置くことで、心が動き出す瞬間があるわけ」
言葉による指示は楽曲の背景が多いが。
松下先生の“指揮”は言葉以上に雄弁に理想の音楽を語る。
からだ全体を捻り、ねじり、
(本番の演奏会ではもちろん無かったが)
時には180°回転させ、楽曲そのものを伝える!
それはまるで創作舞踏のよう。
そして大きな動きだけではなく
「みんななくしてしまった と…」の
「と」 を表現するための、
腕と手のわずかな動き、その繊細さ!
かつて合唱を始めたばかりのころ、ある本で
「一流の指揮者が前に構えただけで音楽が変わる」との
記述を目にして
「へっ、んなバカなことあるわけねー」…などと思ったけれど。
やはり優れた指揮者、というのはひとつの動き、指揮にも
深く、さまざまなメッセージが込められているのだ。
歌う側は、それと知らず、その指揮者の音楽に惹かれ、
自分の今の歌から、指揮者の求める、
本当の音楽を目指してしまうのだ、という事実。
<20:06>
続いて2曲目の「北の海」。
合唱冒頭の「ラララ…」。
最後、音符のわずかな長さに注意が。
「三善先生が(音符の後の休符を)16分休符にした、ということ。
それを『やらなければいけない!』…自分たちは!!」
(“楽曲”を大切に思う松下先生も、もちろんだけど
そういう指示を、すかさずメモするブリリ団員さんに感心。
当たり前、と言えば当たり前なのかもしれないけれど。
先生と冗談交じりの雰囲気の中に、
やらなければいけないことはしっかり、自然とやっていると言うか)
「そこは“凝縮した音楽”が欲しいんだよな!
良く言うけど、フォルテがこれぐらい(と、壁に大きさを示して)あって、
ピアノは、その一部分を切り取るんじゃなくって。
フォルテの空間をピアノの大きさにまで
圧縮して、詰め込んでいる。ぎゅうぎゅう詰めに!」
「男子高校生の弁当みたいだよね。
母ちゃんがご飯をぎゅうっと押し込んで、詰め込んでいる!!
えー、女子高生でもたまにいるけど。
(団員を見渡して)・・・ダレ?(笑)」
<20:17>
「ふるさとの夜に寄す」
浅井先生の素晴らしいピアノが練習会場を満たす。
松下先生
「この前奏ったら、・・・ないよね!」
うんうん頷く団員の方々。(私もうなづいてた 笑)
「一音でも泣ける!」…との声あり。
全体を通し(通しながらも合間に鋭い指示が飛ぶ)、
最後のハミングになると
「ダメだ!」の厳しい声。
「“声”じゃないんだ、サウンドなんだ。
ヴォリュームじゃない!」
「・・・浅井先生と『協奏』しようね。
後から先生を追いかける、じゃなくって。
それじゃ浅井先生も弾きにくいと思うんだよな・・・」
さらに「遠くあれ…」から繋がる箇所の拍節感に言及して。
「拍、というものは体から湧きいずるもので。
『1、2、3…』と頭で考えると “遅れる!”」
曲中、その拍節感を感じさせるため、足を大きく踏み鳴らし、
表現がもっと欲しいのか団員の顔近くまで体を乗り出す、
まさに「白熱した指揮!」。
「ふるさとの夜に寄す」の練習終わりに。
「この曲には6小節の前奏があります。
この前奏の音は、1拍ごと、ひとつひとつの音ごとに
グラデーションで変わっていくんですよね…。
それをみんな、自分の中でイメージをして欲しい。
頭で何も描かないで、歌うのとは、違う。
前奏のイメージを自分で描いて、そして
『やさしい人らよ…』と歌いだす。
・・・これを本番にやりましょうね!」
(その3へつづく)
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